白石一文 (2015). ここは私たちのいない場所. 新潮社.
key words:鱧づくしのコース, さまざまな色の水晶体みたいなもの (:128), 虹から生まれた美しい珠(:137)
三歳のときに命を落とした(:3)妹の在実(あるみ)により「人間の死の理不尽さを痛切に感得した」(:7)主人公の芹澤存実(ありのり)は, ある日 元部下である鴨原珠美の策略から大手食品メーカーの役員を辞職することになる.
人間の生き死にを含め人生について不条理さを感じながら生きていた芹澤にとって, 会社を辞めたことは大きな問題ではなかった.
しかし, 珠美と会う時間を重ねていくことで, それまでどこか無機質で冷めていた芹澤の人生が少しずつ色彩をもちはじめていく.
芹澤は, 珠美の声を耳にして「急に泣きたいような気持にな」ったり (:96), 珠美の顔に「記憶の中の在実の面影」を重ねたり(:109)するのだった.
人生にとって大切なものとはなにか (セスナの墜落事故で九死に一生を得た里中の言葉(「たとえば病気になって呼吸が苦しくなって心臓が止まる寸前だろうと、つきつけられたピストルが火を噴いて、弾丸が心臓を直撃してぶっ倒れたとしたって、俺たちはいつだってその現実が現実だとは思えないんだと思う。結局、人間は、自分が死ぬのかどうか判断がつかないまま本当に死んじまうんだよ。」(:152))が印象的だった).
答は最後まで書かれない.
タイトルの意味についても.
いずれについても, 漂いながらもう少し考えてみたいと思う.
(今日はTVドラマ「カルテット」の最終回でした. 椎名林檎のうたが心に刺さります. 「言葉の鎧も呪いも一切合財 脱いで剥いでもう一度 僕らが出会えたら」…. 嘘と秘密と夢, 言葉にすれば信じられないくらい安っぽいけれど, その難しさと愛おしさが人生にはあるのでしょうか…)