11/26/2011

下野達也/広島ウインドオーケストラ 交響曲


下野竜也指揮 広島ウインドオーケストラ 兼田敏「交響曲」
2011.04.30.released / BOCD-7327

聴くよりも吹く方が楽しい!! 吹奏楽。
とは、ちょっと「さよなら」します。

大きく話さなくても、心に、すっと入っていくような言葉を目指します。
そんな吹奏楽を目指してみます。

広島ウインドオーケストラの音楽監督就任に寄せた下野竜也の言葉だ (CDブックレットより).
下野は, 「当面の、私の目標は、広島ウインドオーケストラの演奏会が、大人のデートの場所になれるような音作りです。」と続ける.
なんて素敵な言葉だろう.

このCD, 2011227日に広島で行われた演奏会のライヴ盤である.
そのセットリストにまずは驚くが (音響空間を織り上げていくような平石博一「水を抜けて」, 吹奏楽作品は珍しい糀場富美子の「シリウス」, フランス語名である「2つの音風景」というタイトルがしっくりくる保科洋「響宴Ⅰ&Ⅱ」, トランペットが印象的な兼田敏「交響曲」の4), 心地よい包まれるような響きに, さらに驚く.
前述した下野の目標は, この音を聴く限りまずは達成されたのではないだろうか.

中でも, 保科洋「響宴」が秀逸.
どこまでも広がっていく世界観と透き通る音.
こんな経験が吹奏楽であっただろうか, , レーベルのキャッチコピーのようなことをつい思ってしまう ().

結成18年目となる広島ウインドオーケストラ, 2回の定期演奏会に加え, 数多くの録音を世に出している.
そんなバンドと, 下野竜也との共演がこれから続いていくのだ.
次の作品も楽しみである.

兼田敏:ウインドオーケストラのための交響曲

11/19/2011

Ovall HEART FEVER


Ovall HEART FEVER
2011.10.26.released / OPCA-1016

なんだか懐かしい気持ちで, 心地よく漂っている自分がいた.
新譜を聴いてこんな気持ちになるのは珍しい.
 
1度聴いて, どこの国(文化)の, どの時代の音楽なのか全く分からない.
2度・3度聴くともっと分からなくなる.
, そんなことはどうでもいい.
音に身を任, 揺蕩うことがとても気持ち良いのだ.

いわゆる泣きメロも, ハウスのような4つ打ちも無い.
特徴的なメロディも, これといって無い.
必要な分だけの音と必要な分だけの空白(あるいは休符=音の名残)を味方につけて, 心地よい空間をデザインしている.
そんな音楽だと思った.

ループが心地よい tr.04 "Moon Beams" , その残響が綴られる tr.05 "Moon Beams (Reprise) " には, 9月にリリースされたlaidbook12(リニューアルされてとってもcooool!)でポエトリー・リーディングが重ねられていたモチーフが使われているが, "Moon Beams"(表と裏のような2曲)の方がずっといい.
アルバムタイトルにもある "fever" を冠した tr.02 "Feverish Imagination" も同じく, ずっと聴いていたくなる楽曲だ.
呟くように歌われるvocalとテキストが心地よい.

I’ll get the door and out to the world
There’s no guide, feel every moment
So, many times I have feverish imagination
Let me know what you think
Show me how you feel
"Feverish Imagination"より)

さて, もう少し漂うことにしましょうか.

Heart Fever
laidbook12 - different cities, different expressions.

11/12/2011

角田光代 この本が、世界に存在することに


角田光代 (2005). この本が、世界に存在することに. メディアファクトリー.

key words:旅する本, 本との旅, わたしを映す本
 
私がこの世でいちばん好きな場所は図書館だと思う.

…何の脈絡もないが, 吉本ばなな風にいえばそうなる.
図書館の安心感といったらまず他にはないし, 午前中でも午後でも夜でも, それぞれに雰囲気があるのがとてもいい.
あの宝島になら何日でも居られる気がしている.
本屋も, ドキドキわくわくして大好きだ (…けれど, 増えに増えた本の行く末を案じはじめた最近はなるべく買わないようにしているので, やっぱり図書館が一番だと思う) .

本書には「本」をめぐる9つの短編が記されている (素敵なあとがきエッセイも加えれば10のお話になる).

ポカラ, アイルランド, 私を旅先で待っている, 奥付にイニシャルと花の絵が描かれた旅する本 (「旅する本」).
「だれかを好きになって、好きになって別れるって、こういうことなんだ」と気づかせる漫画本の十五巻目や (87), 「いろんな人の記憶」が書き綴られているのかもしれない伝説の古本 (135).

たくさんの本が登場し, それらの本はそれぞれのやり方で, 私に私自身の姿を見せる.
そして, 「この本が存在するのとしないのとでは世界はだいぶ違うだろう」(209) , 思わせるのだ.
やはり, 本は素敵だ.

あとがきエッセイで著者はいう.
「本は人を呼ぶ」と (236).

さて, これから先, どんな本に呼ばれ, その本はどんな私を映し出してくれるのだろうか.
本との旅は続く.

この本が、世界に存在することに (ダ・ヴィンチ・ブックス)

11/05/2011

中村文則 掏摸


中村文則 (2009). 掏摸. 河出書房新社.

key words:塔, 塔のようなもの

ドキドキしながら あとがきまで辿り着いて, 思わず「えっ…」と呟いてしまった.
天才的な掏摸師である主人公が遠くに見る「塔」は, 作者自身が小さい頃に見ていたものだというのだ.

「僕」が不安の中にあるとき, 進むべき道の選択を迫られるとき, その塔(でもそれは何だか分からない)は現れる.

木崎が主人公に目を付けた理由が分かるような小学校の回想場面が途中あるが (小学生の主人公は, 「皆に押さえつけられ、恥の中で、僕は染み入るような、快感を感じ」る), そのときも「塔はなおも、美しく遠くに立」っていた (147).
塔は, 見上げると「いつもぼんやりと見えた」のだ (144).
不思議なシンボルである.

ものすごく臨場感があって, 五官を刺激する文章.
「土の中の子供」もそうだったが, 描写のリアルさと臨場感満載のその物語を, 憑りつかれたように読んでしまった.

かつて, 佐江子に掏摸をする理由をきかれた主人公は, こう答えるのだった.

「自分の最後が、どうなるのか。……こういう風に生きてきた人間の最後が、どうなるのか。それが知りたい」(87

それは決して恰好をつけたわけではなく, できれば誰かと繋がっていたい, 自分の人生は自分で決めたい, という願いだ.
物語を読み終える頃には, 確信をもってそう思える.

さて, 「王国」に続く.

掏摸(スリ)
土の中の子供