8/27/2012

Proserpine Harmonia


Proserpine Harmonia
2010.05.21 / ZN-1121

益子のユニット・ProserpineHideshi Takatani / Akira Yamamoto)による, ギターと鍵盤ハーモニカ, パーカッションのインプロが収められた一枚.
東神田のstarnetで手にしたものだ.

寒いけれど晴れた冬の朝のよう.
暖かい部屋のなか, 天井の高い暖炉のある部屋で録られたような音楽.
そんな想像を膨らませるように, 光と, そして膨らんだ空気が収められている.

優しく, 生活のなかにそっと入ってくる音楽たち.

(写真はstarnetの道路向かいのお店「イズマイ」. フクモリさんの姉妹店です)

8/26/2012

第22回芥川作曲賞選考演奏会


22回芥川作曲賞選考演奏会(サントリー芸術財団サマーフェスティバル2012
2012.08.26 / サントリーホール大ホール

「東京にクラシックホールをつくり, 作曲家の個展をする」ということを初めてしたのが芥川也寸志だった, との司会者・片山杜秀さんのあいさつから始まった第22回芥川作曲賞選考演奏会.

本選の前に演奏されたのは, 山根明季子の「ハラキリ乙女~琵琶とオーケストラのための~」だ (20回芥川作曲賞受賞記念サントリー芸術財団委嘱作品).

裸足に朱色の衣装, エメラルドグリーンの髪, 鼻にピアス, 頭上には角を切られた鹿(?)の被りもの, という格好で登場した西原鶴真(薩摩琵琶)は指揮者の前に座ると, キリキリと琵琶を斬りだした (高音の琵琶).
それにこだまする弦楽器のpizz.とのやりとりが続いたのち, 突然キラキラしたトロピカルなパーカッション・鍵盤群が溢れ出す.
薩摩琵琶の緊張感あふれる音と, オーケストラ群の「ポップな毒性」(作曲家自身の言葉).
この対照的な2つのモチーフのやりとりが印象的だった.

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描こうとしたのは、刀を持たない現代において、カッターなどの鋭い刃物で斬りつけるような質感。琵琶が空間を斬りつけ、オーケストラから溢れ出すのはショッキングピンクを基調に夢いっぱいつまった乙女の器官。武士の品格とパンクの精神で、凝り固まった何かからポジティブな死と再生を思う気持ちで作りました。
(:「サマーフェスティバル2012」パンフレットより)

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作品についての作曲者ノートには以上のようにあった.
なんとも不思議な世界観である.
ただ, 個人的には薩摩琵琶の魅力といえばあの大迫力の外向きなベクトルの音(打楽器的)と, なんとも哀愁を感じさせる内向きに秘めた淡い音との対比だと思っていたので, その淡い余韻をあまり聴けなかったことが少し物足りなかった (もっとも, それが作戦だったのかもしれないが).

(ところで, 山根の描く音の世界については「ベルク年報13」(日本アルバン・ベルク協会, 2008130-139)に書かれた彼女の論文「創作についての論考:音を視る」がその理解を助ける参考になる. 「音は世界である」(:130)という彼女にとって, 「作曲は, いわば過ぎ去ってしまうことに対する恐怖から生まれる標本化の欲望」(:131)なのだという. 「ポップな毒性」についてはこの論文においても触れられており, 「私の作品ではしばしば, ダークなものや毒のあるテーマを内に潜めているにも関わらず, 明るい印象の音感が用いられる。このことは, 決して耳あたりの良さを狙った結果ではなく, 或るポップな造形の質感を描く上でどうしても必要と感じて選択された音感なのであり, そして極めてポップに描くことによって, 逆に, 人工着色料的な毒性を表現できると考えてのことである。」(:135)と述べられている. たとえば「水玉コレクション NO.06」(会場で購入した)で聴かれるトロピカルな色彩が とてつもなく不気味なのはそのためもあるのかもしれない…)

休憩ののちに始まった本選では, 4つの候補作品が演奏された.

塚本瑛子「一瞬の内に:オーケストラのための」(2011)は, メロディックにうたう弦楽器からはじまる作品.
静かで美しい音楽だった.

新井健歩「鬩ぎ合う先に~オーケストラのための~」(2011)は強烈なtuttiから開始された.
次々と波打つ弦の弓が印象的.
終盤, もう一度tuttiで強い音が奏でられ, ラストの音とともに暗転して(照明が消されて)曲は断ち切られたのだった.

阿部俊祐「イル」(2011)はスネアとバスクラのリズムにのって, 奏者がそれぞれ自由に, 不安げに, 慎重に, 大胆に歌いだす曲.
ラスト, Tbが高らかに鳴ると, テンポを保ったまま急激に終わりを迎えた.

大場陽子「誕生」(2011)は, 1. 月とともに, 2. 生命は海深くの温泉から生まれた, 3. エディアカラの楽園, 4. 赤子のラブソング, 4つからなる, 繰り返しが特徴の弦楽アンサンブル (この日は6/6/6/6/3で演奏).
指揮者を中心として同心円状に演奏者が座る配置(楽器もバラバラに点在させて)が目をひく.
1. 月とともに」は, やさしい, でも力強い音楽.
コントラバスの鼓動の上で柔らかくうたう弦たちが心地よかった.
2. 生命は海深くの温泉から生まれた」は, 折り重なっていく各楽器のフレーズ, 渦巻く響きが印象的.
3. エディアカラの楽園」は高音クラスターの放物線からスタート.
エディアカラとは約6億年前のエディアカラ紀のことで, それは生物同士の捕食-被食関係が生まれる前の穏やかな時代だったのだという (:パンフレットより).
4. 赤子のラブソング」は密度の濃い, 熱い音が美しい楽章.
正統派のメロディーが心に残った.

その後の公開選考では, 3人の審査員がそれぞれの楽曲について意見を述べた (以下, 印象に残った発言を抜粋).

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《塚本瑛子:一瞬のうちに》
北爪道夫:常識的ななかで合理的に書かれているオーケストレーションと, その中でまた繊細に動いている書き方が好印象だった. もっと静的でスタティスティックでもいいのではないか.
高橋裕:静謐で美しい音楽だと思った. (北爪とは逆に) 少し退屈に感じるところもあったので, (静かさを際立たせるためにも) 何か違う音があってもよかったのではないか.
原田敬子:音楽がどう認識されるのかということをテーマに, 音の運動と静止によってシンプルに書かれている作品であったと思う. 不定期的な静止のたびに期待感が起きる作品だった. 管弦楽法でいえば, エコーの効果を多用し, 陰影の作り方が上手だったが, 静かで禁欲的な表現の部分は, もっと独自なものがあればよかったのではないか. さらに, 音のジェスチャー, 身振り自身にもっと個性があればよかった.

《新井健歩:鬩ぎ合う先に》
高橋:出だしはカッコよかったが, だんだんとスリリングさが無くなっていってしまった. 弦楽器の記譜法(2段譜で, 上段に左手のポジション, 下段に何番線を弾くか記載)などを見ると新しいことをしたかったのだろうが, 出てくる音はそんなに新しいものではないと思った.
原田:シンプルな表現の中身に拘っている作曲家で, 音楽の中にある力を感じる作品だった. 自分なりのやり方をもっと模索してほしい.
北爪:率直な音楽で好印象だった. 顔が見える作曲家であった.

《阿部俊祐:イル》
原田:言いたいことを大きな声で伝えている音楽. ピッチも濁らず響きやすい音を選んでいる.
北爪:物語があるのならもっと緻密にかけたのではないか. 訴求力が足りず, ラストが稚拙になってしまったのが残念.
高橋:吹き出てくるパワーのようなものを感じた. ただ刻みが多すぎる. もっとハメを外すところがあってもよかったのではないか.

《大場陽子:誕生》
北爪:立ち上がりが絶妙だった. 共同体のような音楽である. 反復の奥にすごい職人芸が潜んでいたが, でもこの職人芸が作曲家の本質を弱めているのではないか.
高橋:広い空間をもっている音楽. ミニマルの仕組みが簡単に見えてしまうのが良いのか悪いか, 判断に悩む.
原田:非常に安定した脱力系の音楽. 音楽の豊かさについて知っている人がつくった音楽. 「繰り返し」の技法を今また採る, ということについて, 勇気のある作曲家だと思う. 1楽章は特に素晴らしかった. 24楽章はもっと固有なテクスチュアができるのではないだろうか (繰り返しが気になってしまった). 聴いているだけで満足してしまう危険な音楽.

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選考の結果, 原田の「創造の可能性にかけたい」, 北爪の「『音楽』というときに, いかに『音楽』から脱して発想できるかが大事だ」との意見から, 今回は新井健歩の作品が受賞することとなった (阿部と大場の作品を推していた高橋が折れる形となったのだが…, 公開選考というのはなかなか難しいものだ).

同時開催された「ミュージサーカス」(ジョン・ケージ)と合わせて, そのときその場に立ち現れる音の不思議と美しさということについて考えた一日だった.

8/18/2012

鼓童「打男 DADAN」ECスペシャル


アース・セレブレーション2012 城山コンサート
鼓動「打男 DADANECスペシャル
2012.08.18 1830 / 佐渡島・小木 城山公園

EC2012, 2日目の城山コンサートは, 7人のジェゴグ(竹マリンバのアンサンブル)から迫力満点にスタート.
中央の2人はバズーカ砲のような巨大な楽器に乗っている.
上手の一人はレヨンのような楽器.
トロピカルなペンタトニック音階が野外に心地よい.

続いて, 締太鼓6つとチャンゴ(?)のアンサンブル.
デ・メイ「机の音楽」のようなパフォーマンスが視覚的にも面白い.

そのまま, 途切れることなく3人の巨大太鼓のアンサンブルへ.
空気のwaveが圧倒的な迫力でこちら側にやって来る.
予動の脱力と初速のパワーの凄さ.
すごい力だ.

最初の竹マリンバのコミカルなアンサンブルを挟んで, 後半は踊り狂う太鼓のアンサンブル!
客席後ろからも奏者が登場し, 会場は四方から波に包まれる.
波動が次々と飛んで来るそれは, まさに体全体で聴く音楽.

カーテンコールには総合演出の坂東玉三郎も登場して, ステージに華を添えた.
佐渡の熱い夜の下, 白熱したライヴだった.

EC2012 上妻宏光ワークショップ



アース・セレブレーション2012 ワークショップ
上妻宏光レクチャー&デモンストレーション
2012.08.18 1000 / 佐渡島・離島センター3F

佐渡は今回が3度目だという上妻さん.

ワークショップは太棹三味線の説明(細棹:歌舞伎・猫皮, 中棹:西日本, 太棹:東日本・犬皮. ちなみに野外用は合皮を使用しているのだそう)から, アットホームに始まった.
実際に撥づけ(リズム)が違う3つのじょんがら節を演奏してもらうと, 三味線を「叩く」という表現に納得がいく.
続いてさわりの説明.
チューニングが合ってビーンと響く(チューニングが合うと, 二の糸, 三の糸を弾いてもビーンと響く)さわりが心地よい (ツボによってよく さわりが効くツボ(たとえば6のツボ)があるのだとか).

その後, 佐渡おけさ, 青森・あいや節, 九州・ハイヤ節の3つを演奏してもらう.
佐渡おけさ, 青森・あいや節はいずれも九州のハイヤ節が北前舟に乗せられて運ばれてきたものだそうだ.
北に行けば行くほど, だんだんもの哀しくなっていくのが面白い.
なるほど, 民謡はその土地の風景が見える, という話にも納得がいく.
一緒に演奏してくれたピアノの伊賀拓郎さんがこれまたcoooolだった.

さて, 茨城の出身で, 6歳で民謡と出会い, 12歳でテレビの三味線ちびっこ日本一になったという上妻さん.
ドラえもんを観ながら, じょんがらのはじき(左手)を練習していたというエピソードも話してくれた.

その他にも, 手拍子の手もみは "こぶし" が生み出す「間」を埋めるために必要であること, ダウンビートは日本舞踊に通じていて, 日本舞踊も腰を落として下でリズムを取ること…など, 面白い話が次々出てきた.
昔の青森では, 目の不自由な人は按摩か三味線弾きになるしかなったが, 一家から三味線弾きが出ることは恥とされていた, という話もあった.
知らないことばかりだ.

その後は体験コーナー.
客席から3人がレクチャー講座を体験した.
さくら, ハイサイおじさん, smoke on the water(!)など, ワンフレーズをそれぞれ弾いてみるのだったが, とても和やかで楽しいものだった.

最後の質問コーナーで, 太鼓と三味線は音の減衰する形が似ていて, それをどう活かしあうか葛藤した, と話していた上妻さん (ちなみに, 思い出深い曲は? との質問には, 1枚目の「游」だと答えていた).
音色に拘り, ビートを楽しむ日本の楽器らしいポイントだと思いながら聞いていた.

ワークショップの終了は11時半過ぎ.
あっという間の時間だった.