3/29/2017

堀江敏幸 音の糸


堀江敏幸 (2017). 音の糸. 小学館.

key words:週刊誌「ル・ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール」(55), グルダの『音楽への言葉』(:163

小学館発行『クラシックプレミアム』誌に平成261月から平成2711月まで連載された記事をまとめたものだという.

指揮者・岩城宏之のエピソード(オーストラリアの音楽祭でメルボルン交響楽団を従えて春祭を指揮したときの振り間違い)(:79)や, バレンボイムのベートーヴェンのシンフォニーの分析(サイードとの対話によるもの)(:131-132)などに触れて心が揺り動かされた経験が多数紹介される.
吉田秀和を訪ねたときのエピソード(:136-139)も印象的だった.

ジェラルド・ムーア(伴奏ピアニスト)の引退コンサートの録音に触れたときのことを記した文章が心に残る.

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一九六七年の引退コンサートには、交流の深かったロス・アンヘレス、シュヴァルツコップ、フィッシャー=ディースカウが登場し、ムーアのピアノで心のこもった歌声を聴かせた。その舞台の終わりに、別れの挨拶として、ムーアは生涯でただ一度の独奏を披露している。ピアノ用にみずからアレンジした、シューベルトの《音楽に寄せて》。手元のCDの表記ではわずか一分三十五秒の小曲だ。しかしここには、彼の音楽家としての精髄がある。角がまったくない、すべてを包み込むやさしい情熱に満ちた音。できることなら、いつか自分の言葉をこういう音に近づけてみたいと、私はひそかに夢見ている。(:33

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なんとも素敵な文章だった.

(下の写真は, この間いただいた米沢市・角屋さんの窯出しシュークリーム. シュークリームが名物のお店で, もちろんとっても美味しいのですが, 同じくケーキの数々も美味しいお店です. ふわふわのスポンジで作られるショートケーキもモンブランもオムレットも…, 最高なんです. 東京で買う上品なケーキの倍以上あるサイズもぺろりといただきます)


3/21/2017

白石一文 ここは私たちのいない場


白石一文 (2015). ここは私たちのいない場所. 新潮社.

key words:鱧づくしのコース, さまざまな色の水晶体みたいなもの (128), 虹から生まれた美しい珠(:137

三歳のときに命を落とした(:3)妹の在実(あるみ)により「人間の死の理不尽さを痛切に感得した」(:7)主人公の芹澤存実(ありのり)は, ある日 元部下である鴨原珠美の策略から大手食品メーカーの役員を辞職することになる.
人間の生き死にを含め人生について不条理さを感じながら生きていた芹澤にとって, 会社を辞めたことは大きな問題ではなかった.
しかし, 珠美と会う時間を重ねていくことで, それまでどこか無機質で冷めていた芹澤の人生が少しずつ色彩をもちはじめていく.
芹澤は, 珠美の声を耳にして「急に泣きたいような気持にな」ったり (96), 珠美の顔に「記憶の中の在実の面影」を重ねたり(:109)するのだった.

人生にとって大切なものとはなにか (セスナの墜落事故で九死に一生を得た里中の言葉(「たとえば病気になって呼吸が苦しくなって心臓が止まる寸前だろうと、つきつけられたピストルが火を噴いて、弾丸が心臓を直撃してぶっ倒れたとしたって、俺たちはいつだってその現実が現実だとは思えないんだと思う。結局、人間は、自分が死ぬのかどうか判断がつかないまま本当に死んじまうんだよ。」(:152))が印象的だった).
答は最後まで書かれない.
タイトルの意味についても.

いずれについても, 漂いながらもう少し考えてみたいと思う.

(今日はTVドラマ「カルテット」の最終回でした. 椎名林檎のうたが心に刺さります. 「言葉の鎧も呪いも一切合財 脱いで剥いでもう一度 僕らが出会えたら」…. 嘘と秘密と夢, 言葉にすれば信じられないくらい安っぽいけれど, その難しさと愛おしさが人生にはあるのでしょうか…)

3/20/2017

第10回 声楽アンサンブルコンテスト全国大会2017 本選


10 声楽アンサンブルコンテスト全国大会2017 本選
2017.03.20 / 福島市音楽堂

今年も声楽アンサンブルコンテストへ.
今日の福島は春の陽気で, とても暖かい一日.

今回の参加団体総数は127団体だったという.
その中から, 本選へ出場した団体は以下の15団体.

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01. 神戸大学付属中等教育学校 コーラス部〈兵庫県・中学校 / 女声16人〉
02. Choral Aurora〈福島県・一般 / 混声16人〉
03. 青森県立八戸東高等学校音楽部〈青森県・高等学校 / 女声16人〉
04. 山形県立鶴岡北高等学校音楽部〈山形県・高等学校 / 女声13人〉
05. 市川市立第五中学校合唱部〈千葉県・中学校 / 混声16人〉
06. 合唱団Apio〈青森県・一般 / 混声16人〉
07. Chor OBANDES〈埼玉県・一般 / 混声16人〉
08. 福島県立郡山高等学校合唱団〈福島県・高等学校 / 混声16人〉
09. 岩手県立不来方高等学校音楽部〈岩手県・高等学校 / 混声16人〉
10. 国府台女子学院中学部合唱団〈千葉県・中学校 / 女声16人〉
11. 日本大学東北高等学校合唱団〈福島県・高等学校 / 混声15人〉
12. 郡山市立郡山第五中学校〈福島県・中学校 / 混声16人〉
13. DON BOSCO MAKATI-BOSCORALE〈フィリピン共和国・一般 / 男声16人〉
14. 郡山市立郡山第二中学校〈福島県・中学校 / 混声16人〉
15. HOLY ANGEL UNIVERSITY CHORALE〈フィリピン共和国・一般 / 混声16人〉

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まずは, どの団体も基本的な発声がとても美しい.
そして郡山五中の生徒の声には毎年のことながら驚かされた.
本当にレベルが高く, この水準の演奏を一堂に聴くことができる素敵なコンテスト
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審査の待ち時間に, 特別企画コンサートがプレゼントされた.
これも素晴らしかった.

まずは福島県合唱連盟青少年選抜合唱団の合唱.
「楽譜を開けば野原に風が吹く:福島県合唱連盟創立70周年記念委嘱作品」(詩:和
合亮一 曲:信長貴富)では, 溶け合う声が美しかった.
この他, ラインベルガーのミサ曲が2つと, ブルックナーのモテットが2つ演奏され
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弱奏が綺麗に香る, 緻密だが安心して聴ける演奏.
ダイナミクスレンジも広く, 福島県の合唱のレベルの高さを改めて感じた圧巻の音楽だった.

続いて, 樋口達哉・醍醐園佳・金井信のスペシャルコンサート.
オペラのアリアが, 軽快なMCを挟みながら7曲ほど歌われた.
アンコールの「O sole mio」まで, 大盛り上がりのステージだった.

本選出場団体についての審査結果は以下のとおり.

総合第5位 日本大学東北高等学校合唱団
総合第4位 郡山市立郡山第二中学校
総合第3位 福島県立郡山高等学校合唱団
総合第2位 郡山市立郡山第五中学校
総合第1位 岩手県立不来方高等学校音楽部

審査員特別賞:山形県立鶴岡北高等学校音楽部
Bobチルコット賞:青森県立八戸東高等学校音楽部

最後に作曲者・信長貴富さんの指揮で「夜明けから日暮れまで」が会場全体で歌われ, 閉会となった.

(写真は福島市・食堂ヒトトの「元気村のお豆腐カツ定食」. お豆腐勝に豆腐タルタルソースかけ. 具沢山・甘いお味噌汁と合わせてとっても美味しかったです(お土産にいただた「金柑とピスタチオのタルト」も)!)
(帰りのラジオでは山下達郎と星野源の特別番組(民放ラジオ101 特別番組 WE LOVE RADIO!「山下達郎・星野源のラジオ放談」)をやっていました!)


3/19/2017

東響 第100回 新潟定期



東京交響楽団 第100 新潟定期演奏会
2017. 03.19, 5 pm start / "りゅーとぴあ" コンサートホール

100回目となる東響・新潟定期は, 昨年没後80年を迎えたレスピーギのローマ3部作.

最初に演奏されたのは「ローマの噴水」.
「夜明けのジュリア谷の噴水」冒頭の静かなところは, 緊張感がやや足りずミスが気になる.
それ以降の強奏部はゴージャスで心地よい.
Pf, Celesta, Arp (×2), Organといった豪華な鍵盤に, 吠えるTpTb, 暴れるTimpが重なる.
大饗宴を経て夕焼けが沈み, 音楽は静かに終了した.

続いて「ローマの松」.
Perc 7, Hn 6人で華やかにスタート.
カタコンベで, 透きとおるTpのサンクトゥスにそっと寄り添う弦が柔らかくとても心地よかった.
ジャニコロの松も美しい.
最後, ナイチンゲールが鳴いてスパルタクスの反乱(アッピア街道の松)へ入ったあとは, アングレがbravo
バンダの演奏も相まって, 余韻たっぷりにゴージャスなサウンドだった.

休憩後, 本日ラストは「ローマの祭」.
本当にすごいスタミナである…. 
チルチェンセスは, いよっ, 待ってましたっ!の時代劇のようにスタート.
月祭はHnsolo(上間善之)がbravo
マンドリン不思議な世界へ誘う.
主顕祭ではシンバルアダプター付 B.D.Timpを含む10人のPerc.による大饗宴.
と思っていたら, 予想よりも抑えた演奏.
うるささに走ってカーニバル化はさせない.
おもちゃ箱のようにキラキラとしたトロピカルな演奏.
なによりも楽しそうなのがいい.
ラストは大迫力!
この大迫力のために前半は抑えていたのだろう.
ものすごい昂揚感で, ラストまで駆け抜け大花火が上がった.

決して派手さだけには走らない, 飯森さんならではの素敵な調理が楽しめた演奏会だった.

(写真はお昼に酒田の東根菓子店さんで買ったおまんじゅう. おまけにいただいた あたたかい おまんじゅうがとても美味しかったです. 夜はvovo新潟本店でいただいた2コンビネーションカレー (バターチキンカレーと野菜カレーの半々). 野菜カレーが甘辛くて美味しかった~!)

マリメッコ展(万代島美術館)


マリメッコ展:デザイン、ファブリック、ライフスタイル
2017.03.04 - 06.11 / 新潟県立万代島美術館

フィンランド・デザインミュージアムのコレクションから, 1951年創業のマリメッコ(フィン語で「マリーのドレス」)の歴史と全貌にせまる展覧会.
ファブリック(布地)約50点やヴィンテージドレス60, デザイナーのスケッチ, 各時代の資料などが展示されている.

「Ⅰ. はじめに:マリメッコとは?」では, 女性を家庭の主婦から解放する動きにあわせてファッションが変化した1950年代に, 都会と田舎, 伝統とモダンなど, 対極にある2つの要素の連続を特徴として誕生したマリメッコについて紹介される.
おなじみの「ウニッコ(ケシの花)」や「イソト チヴェット(大きい石)」など, 大きなファブリックがインパクトたっぷりに並ぶ.

「Ⅱ. マリメッコの歩み:1951-2016」では, 数十年で国際的ファッション・ブランドに成長したマリメッコについて紹介される.
創業者アルミ・ラティアのクリエイティヴな仕事(プロデューサー業)や, ヴオッコ・ヌルメヌニエミ(マリメッコ初の正社員デザイナー)やマイヤ・イソラ(1949-87まで500種のデザイン!代表作ウニッコ)のcoolなデザインを目にすることができる.
アンニカ・リマラのコットン・ジャージー商品「タサライタ」(ボーダーのTシャツ)もこの時代の作品 (同じアンニカ・リマラのドレス《サニアイネン》(ピルヴィ(雲)の柄、上がエンジで下がこげ茶)もとても素敵だった).
また, リーサ・スヴェント手織りファブリック(シックなデザイン)も見られる.
展示の後半では, マリメッコがアメリカをはじめ世界に広がっていく様子が紹介される.
ファッションだけでなくライフスタイル(食器・ジュエリー・家具, など, フィンランドに行ったときにマリメッコ・カフェやお店で目にしたようなもの)をも紹介していくようになるマリメッコに, 初の外国人デザイナーとして日本人の脇阪克二が加わるのもこの時期だ.
どのドレス・デザインもとても素敵で見ているだけで楽しくなる.

「Ⅲ. デザインの芸術」では, マリメッコのプリント・ファブリックがどうやって生まれ, どのように洋服や日用品になるのかが紹介される.
それぞれのデザイナーの原画と製品が展示されるのだが, そのどれもがとても独創的だ.
カラフルで自由な空間.
最後の最後に青色ウニッコのフィンエアー エアバスA340機が展示され, 楽しいファッションショーは終わりとなるのだった.

年末にはフィンランド・デザイン展が宮城県美で開催される.
こちらも楽しみだ.

(昨日の夜は酒田市・割烹そめ にはじめてお邪魔してきました. 莫大海とわさびをくるんでいただいたスズキのおつくりも, アイナメの煮物椀(写真)も, かぶらの擦りおろし(蟹の銀餡かけ)も…, どれもホントに美味しかったのですが, やっぱり一番のご馳走はおそめさんとのおしゃべり! 御歳87歳とお聞きして驚きました. 赤い番傘でお見送りしてくださった(外は雷と大雨!)おそめさんは最後までチャーミングな方でした~)