田中慎弥
(2012). 共喰い. 集英社.
key words:太刀魚, 第三紀層まで掘り出すチヌ
今更ながら, 図書館に並んでいたのを目にして読んでみる.
強烈に匂いを感じる作品.
読み終わって, この物語のタイトルが「共食い」であることに改めて驚く.
なんと的を得てグロテスクなタイトルか….
遠馬とその父・円(まどか)の関係を見事にいい当てる言葉だ.
釣り上げた鰻の「釘の両端が肉を突き破り、片方は顔を引き裂いている。はりすをくわえている深緑色の細長い受け口が光っている。絡みついた道糸を振りほどこうとして鈍くのたうつ」(:28)のを見て「自分が興奮し、下腹部に熱が集中してゆくのを感じ」(:同)ていた遠馬は, ある日ついに女に平手を打ち下ろす
(:48-49).
かつて, 暴力を振るう前「川なんかどうでもええ。こういうとこで生きとるうちは何やっても駄目やけ。どんだけ頑張って生きとっても、最終的にはなにもかんも川に吸い取られる気ィする」(:16)と言っていた遠馬は, 結局父と同じく川辺から逃げ出せなかったのか.
文章から立ち上がる血生臭さと方言が醸し出す田舎の閉塞感が, 妙にリアルに迫ってくる小説だった.
表題作のほか, 同じく海の街の香りが実際に漂ってくるかのような土地の風や匂いを強烈にまとった作品「第三紀層の魚」も収められている.
こちらも, たとえば曾祖父ちゃんのことで母親に反抗する信道の姿(:113-114)に, 切ないノスタルジーを感じる, 家族を巡る作品だ.
(上の写真は山形市・麺辰の「とっつあんらーめん」(昼夜限定20食!). 煮干・節類をふんだんに使った魚介系スープが素敵. そして下の写真は同じく山形市・KOUBの「デコポンのデニッシュ」. クリームチーズ, サワークリーム, カスタードクリームとデコポン! どちらも美味しくいただきました~)
※リンクは文庫本です.