12/29/2012

原田ハマ 楽園のカンヴァス


原田ハマ (2012). 楽園のカンヴァス. 新潮社.

key words:アンリ・ルソー, 夢 (Le reve), 夢をみた (J'aireve)

「夢」.
アンリ・ルソー晩年の作品で, 画家を代表する油彩画である.
ある日, その作品にうりふたつの「夢をみた」という作品の存在が明らかになる.
「夢」の制作当時, 画家の貧困は頂点に達していた.
大型のカンヴァスを買うにも十分な絵の具を買うにも, ほとんど資金は尽きていた(85)のに, そんななか画家に2つもの大作を描くことができたのか….

物語は, この作品の真贋鑑定をするティム(MOMAのチーフ・キュレーター)と織絵(岡山県・大原美術館の監視員)のふたりと, 鑑定の手掛かりとして与えられた1冊の本を巡って, 倉敷, バーゼル, ニューヨーク…, 場所と時間を交差させながら進んでいく.
彼らの過去が明らかになり, そして「夢をみた」の持ち主とその絵に描かれた女性との関係が次第に明らかになっていく仕方は, 臨場感あふれドキドキする.

物語の終盤, 真絵(さなえ=織絵の娘)がルソーの絵に対して「なんか……生きてる、って感じ」と応える場面がある (290).
いつもは無愛想な娘がポロっと真理をつぶやき, 織絵が息を飲む場面だ.
なんとも印象的だった.

この世界の奇跡をみつめ情熱のすべてで描いた画家, 絵とともに「永遠」を生きた女, その絵を守り抜いた男.
そして後の時代に, その絵を味わい, 真理を掴む人々.
絵は多くの人に育てられる.
そしてそんな絵と, そんな絵を描く画家は(たとえ貧しくともやはり)とても幸せだと, そんなことを思った.

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アートを理解する、ということは、この世界を理解する、ということ。
アートを愛する、とういことは、この世界を愛する、ということ。

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織絵の父親が, 自分に囁いてくれたような気がした (158), という言葉だ.
画家を通じて世界を理解し, 愛するということがアートに触れるという体験.
この本を読んだ後にはなおさら, 納得とともにうなずける言葉である.

楽園のカンヴァス

12/04/2012

コリン・カリー・グループ ライヒ「ドラミング」ライヴ


コリン・カリー・グループ ライヒ「ドラミング」ライヴ
2012.12.04 / 東京オペラシティ・コンサートホール

学生時代, スコットランドの作曲家・マクミランの「Veni, Veni, Emmanuel」(NAXOS)が好きだった.
そのスリリングな曲で打楽器を演奏していたのが, コリン・カリーである.
今回, そのコリン・カリーがライヒの曲で来日する!
そう聞いて, 会場に足を運ばずにはいられなかった.

1曲目は「クラッピング・ミュージック」.
コリン・カリーと, いつものキャップ姿で登場したライヒ本人, 2人による演奏.
たった2人の手拍子に聴き入っている1600人もの観客 (ホールはほぼ満席).
よく考えれば不思議な光景だ.

2曲目は「ナゴヤ・マリンバ」.
ふくよかなマリンバの音色は, どこか水の中にいるような感覚にさせる.
実際に聴こえてくる音とは違うタイミングでマレットを振り下ろすさまは, なんだか衛星中継を見ているかのようだった.

3曲目は「マレット楽器、声とオルガンのための音楽」.
浮かび上がるマリンバ, グロッケン, ヴァイブのモザイクと, 次第に引き伸ばされていくオルガンとヴォーカルが絡み合う.
鍵盤に向かう奏者たちはみな職人(鍛冶屋かなにか)のようだ.
そして, 寸分違わずリピートされるヴォーカルはまさに神業.
ヴォーカルが打楽器群の響きを真似し始めると, ヴォーカルがエコーなのか, 打楽器がエコーなのか…,どちらともなく近づいてきてはまた遠くに消えていくのだった.
それにしてもこの厚みはなんだろう.
CDで聴くのとは全く違う.

休憩を挟んで4曲目は「ドラミング」.
4セットのボンゴから始まったpart 1, 4つの四分音符が次第に分裂していく不思議と, ぞくぞくする3拍子が魅力的.
そのリズムにそっとマリンバの3人が同じリズムで加わり, part 2が始まる.
マリンバは入れ替わりながら奏者を増やし, そこにヴォーカルの2人も加わりだす.
ヴォーカルはマリンバのズレで浮かび上がるメロディをなぞりながらfade in / outを繰り返すのだが, このヴォーカルの存在が大きい.
聴衆はヴォーカルのラインをガイドに, 次々と新発見へ導かれることになる.
近づいては遠ざかるヴォーカルはドラマチックに立体的で, このパートがあるのとないのとでは全く違うことになるだろう.
9人まで増えた奏者に取り囲まれながら叩かれるマリンバ3台のカラフルな心地よさ, そして音型がガラッと変わった瞬間のワクワク感といったら, それはもう本当にライヒならでは.
とても心地よかった.
マリンバのもとから1, 2人と奏者は上手側のグロッケンへ移りだし, グロッケン3人からpart 3はスタートする.
マリンバにグロッケンの低音が重なりだす.
マリンバが完全に消えると, そこはもう別世界, 遊園地のよう.
ヴォーカルに変わって, そこに口笛とピッコロが加わり, 音楽は天空のそれに化ける.
しばらくしてグロッケンの音が減っていき, 四分音符に戻ったところに, マリンバとボンゴが最初と同じパターンで加わる (part 4).
編成は次第に大きくなっていって, 最後は全員(マリンバ・3, ボンゴ・3, グロッケン・3, ヴォーカル・2, ピッコロ・1)でモザイクが奏でられる.
目を瞑ってみると, 実際に演奏しているのかそれとも頭の中だけでなっているのか, まったくわからなくなる.
車酔いに似た感覚で心地よく漂っていると, エンディングが潔く迎えられた.
あっという間の50分間だった.

ほぼ満席の客席が, 下から上までスタンディーグ・オーベーション.
カーテンコールはいったい何度繰り返されただろうか.
この場にいることができてよかった, 素直にそう思えた熱いステージだった.

Veni Veni Emmanuel / Tryst