4/28/2012

世武裕子 リリー


世武裕子 リリー
2010.03.24.released / BNCL-43

言ってしまえば変わった音楽である.
ぶっきらぼうなうた, 現代詩のようなテキスト, ちょっとレトロな, というか前時代的な印象さえ受ける音楽.
どこか言葉が宙に浮いてしまって落ち着かない日本語のミュージカルのようですらある.
その作戦にまんまとハマり, なんだこれは…とこちらの構えが定まらないうちに音楽は進んでいくから, また まんまと自分の立ち位置を見失ってしまう.

その世界観は1曲目「風船とばす」から前面に押し出される.
ぐるぐる回り続ける行進曲にショッキングな歌詞.
伴奏だけ聴けばスリリングでかっこいいジャズなのだが, そこに乗るのはヘンテコな歌詞と歌だ.
いったいこれは何なんだろうか….

フランス語の曲も挟んで迎えた7曲目「オオカミ少女1」は韓国のパンソリのよう.
まるで演説だ.
16ビートにのって感情露わに うたわれる.

続く8曲目「オオカミ少女2」は最後まで進行しない和声と, ミニマルのようにひたすら繰り返されるピアノが印象的.
7曲目と同じテキストを使っているが (途中まで), 全く違う雰囲気の曲になっているのも面白い.

いわゆるポップス界でこのスタンスをとる人を沢田穣治(ショーロ・クラブ)しか知らなかったので (アルバム「Silent Movie」はとってもcooool), 最初に世武を聴いたときには思わずニンまりしてしまったのを覚えている.
1枚目「おうちはどこ?」の, あの弦楽器のアンサンブルはちょっと衝撃的だったのだ.

続く10曲目「海」は, 7拍子の上で色とりどりな音が交差するピアノ曲.
ようやく1枚目のイメージにあった世武の登場である.

大きな海原を弾いたあと, 12曲目「航路」で彼女はうたう.

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波を切って進め 白い帆をなびかせ
波を縫って進め 大空全部つかめ

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すぐそこで演奏していたと思ったら, いつの間にか野外の大ステージでうたっている…, そんな不思議な印象を抱かせるアーティストである.

さて, 間もなくリリースされる新譜が楽しみである.

リリー
おうちはどこ?
Silent Movie

4/21/2012

Susumu Yokota Kaleidoscope


Susumu Yokota Kaleidoscope
2010.10.12.released / LCD-84

美しいデザインの3面デジパックのジャケットを開くと, モノクロのモアレが現れる.
吸い込まれそうになりがら, discを取り出して聴いてみる.

すると今度は耳から, くらくらとワープでもしそうになる不思議な感覚がやってくるのだ.

本作は横田進の32作目となるアルバムだという.
中には, 空港のロビーのような雑多な喧噪, ガムランのような響き, 教会の合唱のような重厚さ…, たくさんの響きが収められている.
世界旅行の写真集を見ているかのように, どの音も自分をここではないどこかへと導く.

光のように乱反射する音たちは, 繰り返されながらも形を変え, 通り過ぎていく.
それはとても心地よいものでまさしく万華鏡のよう, 思いがけずも美しい経験だ.

Kaleidoscope

4/16/2012

セイジ 陸の魚


映画「セイジ 陸の魚」
伊勢谷友介監督

世界は動き続ける.
僕の毎日はただ単調に過ぎて行く.

広告代理店に勤め忙しい日々を送る「僕」は, 映画の冒頭でそう呟き, ドライブイン「HOUSE 475」へと向かうのだった.
そこは20年前の夏, 「僕」が学生最後の夏を送った場所であり, 「セイジ」と出会った場所であった.
そうして物語は, まだ熱を保ったままの20年前の出来事へとタイムスリップする.

印象的なのは西島秀俊が演じた主人公「セイジ」だった.
こんなにもセリフを発しない主人公がいるのか.
HOUSE 475」のオーナーである翔子に「この世で生きることを諦めてしまった陸の魚」だといわれるセイジは, ほとんどセリフらしいセリフを発しない (動物愛護団体の2人に自分の意見を述べる場面以外は).
終始 影を帯びている難しい役を言葉ではなく佇まいで演じ, 人物の向こう側にある複雑な背景を滲み出させていた.
セイジだけではなく, それぞれの登場人物がそれぞれに内に秘めた不安や後悔, 悩みを抱えている.
深い部分でのやりとりを朴訥なセリフから, そして表情から, 距離から感じるのだった.

…だが, その割にはラストシーンがあまりにもストレートに先が読めてしまうものだったりして, これは原作が扱うテーマが映像として表現するにはとても難しいものなのかもなぁ, と冷静に思ったりもしてしまった.
映画のコピーにあった「慟哭のラスト, 魂の物語」と素直に共感するのは, 少し難しいかもしれない.

音楽がいい.
さりげなくもドラマチックなそれは渋谷慶一郎によるものだ.
エレクトロ・アコースティックな音は冷たくあたたかく, 絶妙な距離感で寄り添ってくれるのだった.

4/13/2012

JAD FAIR & TENNISCOATS ENJOY YOUR LISE


JAD FAIR & TENNISCOATS ENJOY YOUR LIFE
2011.10.15.released / SDCD-007

次はどんな展開になるんだろうと, 小説のページを捲るように1曲ずつ聴く.
まるでノードフ-ロビンズのような創造的音楽療法のセッションを聴いているかのようだ (少し語弊があるかもしれないが…).
テニスコーツの2人と, HALF JAPANESEJad Fair.
違う言葉をもつ者同士が, コミュニケーションの手段として音を使っている…, そんな感じさえする.

とんとん とんからりと 隣組

7曲目「隣組」の雰囲気がとてもいい.
ドリフターズが替え歌にした曲だが, これが楽しすぎて(可愛らしすぎて)何度もミステイクを重ねる.
しかし, そのミステイクも回しっぱなしでそのまま収録されている.
レコーディングのアットホームな雰囲気が伝ってくるセッションだ.
聴くこちら側も思わず笑顔になってしまう.

この7曲目以降の雰囲気がとてもいい (録音した順番通りに収録されているのだそうだ).
ちょっと切ない8曲目のあとには, またとびきりナンセンスな9曲目(「すぐおばけ」)が続く.

すぐ(しゅぐ)おばけ~
ドゥンドゥンドゥン

子どもの遊びうたのような さやの柔らかなうたに, す~っと入ってくるJadのスキャット.
相性ぴったりである.

シンプルなのにこれ以上はもう何も要らない, 愛情たっぷりの曲の数々.
Jad Fair自身がデザインしたという飛び出す絵本仕様のジャケットともども, とても可愛らしいアルバムだ.

エンジョイ・ユア・ライフ

4/06/2012

山本兼一 利休にたずねよ


山本兼一 (2008). 利休にたずねよ. PHP研究所.

key words:千利休, 宗恩, 緑釉の香合

秀吉に命ぜられた利休が切腹をする場面から, 物語は始まる.
そこから, 利休を取り巻く人々に次々と語り手を変えながら, 物語は過去へと遡っていく.
妻とは別に想い続けた人がいた利休.
ストーリーが進むにつれ, その女のこともだんだん明らかになっていく.
そしてその女が持っていたのが緑釉の香合であった.
最初から最後まで, 物語はこの香合をめぐって進むのだった.

場面描写がとにかく美しい.
茶を点てるシーンではその音まで聴こえてくるかのようだ.
「一座の会、一碗の茶をかけがえないものとして慈しむ執着と気迫とがある」(37)点前をし, 「人の真似などおもしろくもない」(86)といい「つねに命がけで絶妙の境地をもとめ」(247)た利休.
彼がつくった茶室が, 揃えた道具が, 点てた茶が, すっと目に浮かんでくるようだった.

この小説のもう一人の主人公は, 利休の妻, 宗恩である.
彼女の微妙な心の動きも, 小説家は絶妙に炙り出す.

切腹した利休を見届け, 宗恩は思う.
「なぜ、夫は腹を切らなければならなかったのか。なぜ、死を賜らなければならなかったのか。」(418)と.
それとはまた別の次元で, 宗恩の胸には口惜しさが渦巻く.
命よりも茶が大事であった利休について, そして利休をそうさせた緑釉の香合の女について.

利休と宗恩, そして秀吉の心の動きに触れて, 美とはそれを信じる人の心の強さ…, そんなことを思った.
それに対峙したとき, 人はきっと何もたずねることはできない.
できることは, ただ額ずくこと, ただそれだけだ.

利休にたずねよ