4/06/2012

山本兼一 利休にたずねよ


山本兼一 (2008). 利休にたずねよ. PHP研究所.

key words:千利休, 宗恩, 緑釉の香合

秀吉に命ぜられた利休が切腹をする場面から, 物語は始まる.
そこから, 利休を取り巻く人々に次々と語り手を変えながら, 物語は過去へと遡っていく.
妻とは別に想い続けた人がいた利休.
ストーリーが進むにつれ, その女のこともだんだん明らかになっていく.
そしてその女が持っていたのが緑釉の香合であった.
最初から最後まで, 物語はこの香合をめぐって進むのだった.

場面描写がとにかく美しい.
茶を点てるシーンではその音まで聴こえてくるかのようだ.
「一座の会、一碗の茶をかけがえないものとして慈しむ執着と気迫とがある」(37)点前をし, 「人の真似などおもしろくもない」(86)といい「つねに命がけで絶妙の境地をもとめ」(247)た利休.
彼がつくった茶室が, 揃えた道具が, 点てた茶が, すっと目に浮かんでくるようだった.

この小説のもう一人の主人公は, 利休の妻, 宗恩である.
彼女の微妙な心の動きも, 小説家は絶妙に炙り出す.

切腹した利休を見届け, 宗恩は思う.
「なぜ、夫は腹を切らなければならなかったのか。なぜ、死を賜らなければならなかったのか。」(418)と.
それとはまた別の次元で, 宗恩の胸には口惜しさが渦巻く.
命よりも茶が大事であった利休について, そして利休をそうさせた緑釉の香合の女について.

利休と宗恩, そして秀吉の心の動きに触れて, 美とはそれを信じる人の心の強さ…, そんなことを思った.
それに対峙したとき, 人はきっと何もたずねることはできない.
できることは, ただ額ずくこと, ただそれだけだ.

利休にたずねよ