映画「セイジ 陸の魚」
伊勢谷友介監督
世界は動き続ける.
僕の毎日はただ単調に過ぎて行く.
広告代理店に勤め忙しい日々を送る「僕」は, 映画の冒頭でそう呟き, ドライブイン「HOUSE 475」へと向かうのだった.
そこは20年前の夏, 「僕」が学生最後の夏を送った場所であり, 「セイジ」と出会った場所であった. そうして物語は, まだ熱を保ったままの20年前の出来事へとタイムスリップする.
印象的なのは西島秀俊が演じた主人公「セイジ」だった.
こんなにもセリフを発しない主人公がいるのか. 「HOUSE 475」のオーナーである翔子に「この世で生きることを諦めてしまった陸の魚」だといわれるセイジは, ほとんどセリフらしいセリフを発しない (動物愛護団体の2人に自分の意見を述べる場面以外は).
終始 影を帯びている難しい役を言葉ではなく佇まいで演じ, 人物の向こう側にある複雑な背景を滲み出させていた.
セイジだけではなく, それぞれの登場人物がそれぞれに内に秘めた不安や後悔, 悩みを抱えている.
深い部分でのやりとりを朴訥なセリフから, そして表情から, 距離から感じるのだった.
…だが, その割にはラストシーンがあまりにもストレートに先が読めてしまうものだったりして, これは原作が扱うテーマが映像として表現するにはとても難しいものなのかもなぁ, と冷静に思ったりもしてしまった.
映画のコピーにあった「慟哭のラスト, 魂の物語」と素直に共感するのは, 少し難しいかもしれない.
音楽がいい.
さりげなくもドラマチックなそれは渋谷慶一郎によるものだ. エレクトロ・アコースティックな音は冷たくあたたかく, 絶妙な距離感で寄り添ってくれるのだった.