1/28/2012

Rayons After the Noise is Gone


Rayons After the Noise is Gone
2012.01.18.released / RDCA-1021

とても身近な音楽だ.
いや, 身近にあって欲しい, 居て欲しい音楽だと思う.

中井雅子のソロプロジェクトであるRayons(レイヨン)の1stアルバムを聴く.

素朴なピアノと, まるで時雨のように空間を埋め尽くすストリングス.
耳元に迫ってくるストリングスは時に暴力的/圧倒的で, 密度が濃い.
それに乗って歌うのは, 透き通るヴォーカルだ.
Predawnという名の女性ヴォーカルはゲストだと紹介されているが, この歌い手がいなければきっとこのアルバムは無かっただろう.
とても自然に, すーっと共存している.
それはまさにpredawn, 夜の澱が一番濃くなった時間だ.

作詞も手掛けているPredawn, 4曲目「Halfway」で歌う.

You stare up the sky reach out for the stars
waiting for the noise to go, the evening star to talk

喧噪が去って, 星はどんな話をするのだろうか.

初めて聴く音なのに, とても懐かしい気持ちになるときがある.
この気持ちのメカニズムはどういったものなのか.
After the noise is gone, 静かな雪の夜に吸い込まれそうになる.

After the noise is gone

1/22/2012

日食なつこ FESTOON


日食なつこ FESTOON
2011.12.06.released / TSFC-00030

タワーレコードで見かけて思わず手に取ってしまった, 日食なつこの2ndアルバム.

1991年生まれ.
ストファイのHジェネ祭り('09)で見たときは18歳だった.

その音とスタイル, そして独特な歌い方から倉橋ヨエコ(シャバダ歌謡)を少し思い出してしまったが, 歌い上げている世界観は倉橋とはまるで違う.
力強い歌に乗せられる言葉はプラスのパワーで溢れている.
それはまさに, 色とりどりのフェストゥーンのような楽曲たち.

きっと自身のことを歌っているのろう, 3曲目「天井のない部屋」に背中を押される.
冷静に自分を, 自分の周りを見て丁寧に記された言葉に, 思わずハッとさせられる.
突き刺さるピアノも, 指先で転がされるピアノも, 自由自在な弾き語りに聴き入ってしまう.

1曲目で彼女はこう歌う.

このまま沈みこんだなら 伝説にだってなれそうね
それを「許さない」と叫ぶ声

その声を聴いて, シーラカンスは明日に向かって時空を遡る.
そしてついさっきまでは歪んでいた太陽の輪郭を, 今しっかりと掴むのだ.

FESTOON

1/18/2012

松井冬子展


松井冬子展:世界中の子と友達になれる
2011.12.17 - 2012.03.18 / 横浜美術館

画家はこう始める.

「見えるものが、伝達可能であり共同的であることに対し、痛みは孤独なものである。」(横浜美術館 (2011). 「松井冬子展:世界中の子と友達になれる」図録:2), .

そして, そのプライベートな感覚である「痛み」を, 「視る」という行為によって解き放つことはできるのか…, と問う.

日常的に見間違いをしたり聴き間違いをしたりする人間にとって, 視ることを含めた「感覚」はすべてプライベートなものだが (わたしが視ているものとあなたが視ているものは全く違うものかもしれない), 画家はそれを自覚したうえで, 「ものではなくて感情」を描きたい(美術出版社 (2008). 美術手帳, vol.60 / no.90341といい, 自分の個人的な経験やトラウマを画に現わそうとする.

会場には多くの作品が展示されているが, 中でも「陰刻された四肢の祭壇」という大きな作品が印象的だった.
2メートルは超えているであろう絹本の大きな画面に描かれるのは, 剥がれ, 爛れ落ちた肉を纏っている女性だ.
その片手には巨大な百合の花を, もう片方の手には胎児を持っている.

でも, そんな恰好で画面中央に立っている女性は, 自らの肉体に起きていることにはまるで気が付いていないように, とても穏やかな表情をしている.
うっすら微笑む顔も, 肉が剥がれ落ちた足も, 手のひらの胎児も, すべてその女性に所属するものであるはずなのに, まるで, 全く違うアイデンティティをもつもののようだ.

そう考えると, どこか不敵な冷笑を浮かべているように見えた女性は, あるがままの自分をただ単純に晒しているだけであって, まるで「それが何か?」とでもいわんばかりの無表情に見えてきて, 却ってぞっとするのは見ている(見せられ, 魅せられている)こちら側であったりするのだった.
  
美術手帖 2008年 01月号 [雑誌]
美術手帖 2012年 02月号

1/17/2012

サルヴァトーレ・シャリーノの音楽


COMPOSIUM 2011:サルヴァトーレ・シャリーノの音楽
2011.01.17 / 東京オペラシティコンサートホール

震災の影響により5月から延期となった今年度のコンポージアム.
今回迎えられたのは1947年シチリア島生まれの作曲家シャリーノだ.

1曲目に演奏されたのは「オーケストラのための《子守歌》」(1967).
不思議な配置(1stヴァイオリンの後ろにはチェロがいて, 6本のコントラバスはあちらこちらに散らばっている)の巨大なオケと, いくつも吊るされた水の入ったガラス瓶(?)や巨大なトタンなど不思議なパーカッションが(演奏前から既に)印象的.
曲は, 聴いたことのない, 宇宙のような, 水の中のような…, そんな響きで始まった.
まさに新聴感.
巨大な楽器群が音を次々と受け渡していき, 響きのwaveがステージの端から端まで目に見えるように立ち上がる.
そんな響きの隙間から繰り返される寝息(Tpがマウスピースを咥えて呼吸する音)が見え隠れするチャーミングな作品.
ロビーに展示されていたスコアは真っ黒で, びっしり, 細かく書き込まれていた (パンフレットの解説によると70以上のソロ楽器).
 
大変な配置換え(大きな編成ゆえに, 1曲目の演奏時間と同じくらいかけてようやくセッティングが終了)のあと, 2曲目は「フルートとオーケストラのための《声による夜の書》」(2009).
Flは自身にこの曲を捧げられたマリオ・カローニ.
およそ30分の楽曲全体を通じて, その音色・スピード感の多彩さ, ダイナミクスレンジの広さに驚く.
「Ⅰ. 深淵の谷で」は唸り続けるチェロが印象的.
まるで2頭のセイウチのよう.
もしも言葉が無かったら, 人間はきっとこんな風にコミュニケートしていたのではないか.
色々な種類の放物線が登場し, 次々と円を描いていく.
「Ⅱ. 恐ろしい怪物の口」はtuttiによって繰り返される落下と, その上でうたうFlが印象的.
「Ⅲ. マリオ・カローリと王の虹色の輝き」ではtuttiにようやくメロディらしいメロディが登場し (落下は続く), 空間はまた違う華やかさを纏った.

3曲目は「電話の考古学:13楽器のためのコンチェルタンテ」(2005).
Fl, Ob, Fg, Cl, Hr, Tp, Vn, Vla, Vc, Cb, Perc (B.Drやゴングなど2), Pf13人によるアンサンブルは, コントラバスのひとりごとから始まって, 同じようなパターンを繰り返す.
クロタルの黒電話の呼び鈴のような断片, ダブルリードの重音奏法によるレトロなエラー音のようなパルスが可愛らしい.
 
休憩を挟んで4曲目は「海の音調への練習曲:カウンターテナー, フルート四重奏, サクソフォン四重奏, パーカッション, 100本のフルート, 100本のサクソフォンによる」(2000).
上手にはFl, 下手にはSax(ソプラノからバリトンまで70人ずつ並ぶ.
副指揮者を挟んでその前にはPercを真ん中に, 上手にカウンターテナーと4本のSaxsoli, 下手に4本のFlsoli群が並ぶ.
これだけで異様な光景だ.
曲はsoliFlの鋭い息とSaxのスラップタンギングからスタート.
弾ける水玉, ぶつかる水飛沫.
続いて, 空間を埋めるたくさんのFlSaxたち.
立体感たっぷりに, 音が層になって届く.
ささやく, ささやく.
静かで透き通った響き.
中盤, キータップの音で会場中が埋め尽くされた.
まるで雨が降っているよう.
それをバックに漂うカウンターテナー (透明で自由自在. シャリーノがカウンターテナーを選んだ理由が分かる).
埋め尽くす雨音に距離感を全く失う (ここは屋外か?).
パーカッションも不思議な響きが次々登場して (途中響いた何かが割れるような音は植木鉢だったよう→安江佐和子さんのblog), 異空間をつくり出した.

終演は2130.
「芸術家の役割は、新しいもの、夢、ユートピア、未来をつくり出したり見つけ出すことにある」
シャリーノはそういう (webより).
その言葉どおり, 新しい感覚に満ちた時間だった.

1/15/2012

土岐麻子 sings the stories of 6 girls


土岐麻子 sings the stories of 6 girls
2011.11.23.released / RZCD-46924/B

恋をして体が震えるのを感じる「HIBIKI」の女性, 自然体を憧れられる「Gift」の女性, 「悲しくて笑った」の少し切ないクリスマスのワルツ, 「ひふみうた」の素朴で柔らかい光景, 夏の恋がはじまる「Mr. Summertime」の女性, 大晦日に悲しみとさよならして新しい明日に向かって歩き出す「NEW YEAR, NEW DAY」の女性….
すっと思い浮かぶような情景とともに描かれる, 6人の女性による6つのお話.

どれもそんなに長くはないうたなのに, しっかりと耳に残る.
それはやはり土岐麻子のうたのなせる業なのだろう.

土岐麻子の声を最初に聴いたのは, Cymbalsのピンクのリミックスアルバム「Well-done」だった.
Debut」の「ブルー・バード」や, VILLAGE VANGUARDのライヴ盤に入っていた「私のお気に入り」や「September」(エレピの伴奏が心地よい)も大好きだ.

いま, こんなにポップなメロディを自然に纏って歌えるヴォーカリストがどれだけいるだろう.
別のいい方をすれば, 少しレトロでかなりポップなポップスなのにただただポップすぎるようにはならない(難しい日本語…)軽やかさと心地よさで, いまなお勝負できるヴォーカリストがどれだけいるだろう.
まさに自然体.
土岐麻子を聴くと, きまって街に出たくなる.
 
sings the stories of 6 girls(DVD付)
Cymbals Remix Album Well-done
Debut
LIVE T VILLAGE VANGUARD[VILLAGE VANGUARD限定]

1/07/2012

岩崎真 音と響きの基礎知識


岩崎真ほか (2012). 音と響きの基礎知識:音楽にたずさわるすべての人々へ. 音楽之友社.

key words:室内音響学, 録音, ホール, PA

武満徹はかつてこう言った.

音は消える。
ちょうどインドの砂絵のように。
風が跡形もなく痕跡を消し去る。
だが、その不可視の痕跡は、何も無かった前と同じではない。
音もそうだ。
聴かれ、発音され、そして消える。
しかし消えることで、音は、より確かな実在として、再び、聴きだされるのだ。
(堀元彰ほか編 (2006). 武満徹:Visions in Time (東京オペラシティアートギャラリー「武満徹 | Visions in Time」展公式カタログ). Esquire Magazine Japan168. ※原典は「遠い呼び声の彼方へ」)

いつも過去形でしか聴くことができない, .
目には見えないし, もちろん手でも触れない.
だから, 音を届けたいのに届かない, 聴きたいのに聴こえない…, ということがよく起きてしまう.
音は, いつも不思議で, いつだって少しもどかしい.

本書は, そんな音にかかわる科学的・現実的な手当として, 室内音響学の実践的な内容を48のトピックでまとめたものである.
「音楽にたずさわるすべての人々へ」とサブタイトルが付いているように, 実用的で分かりやすい解説が並ぶ.

練習録音時のレコーダーの置き場所や録音レベルの設定の仕方 (32-39), ホールの形円形, 正方形, 扇形, アリーナ型, シューボックス型, , ホールには確かに様々な形状がある)と音響的特徴の関係 (44-45), 広い舞台で少人数で演奏するときの注意点 (51), 会場練習中の客席内音響のチェックポイント (74-75), スピーカ配置のポイント(:102-103)など…, 気になる内容が並ぶ.
演奏者も, そしてオーディエンスも, この知識があればもっと音楽を楽しめるだろう.

この初級編に続いて, もう少し数字や実験データを取り入れた中級編も出版されればいいのでは, と思う.

音と響きの基礎知識: 音楽にたずさわるすべての人々へ
武満徹―Visions in Time