岩崎真ほか (2012). 音と響きの基礎知識:音楽にたずさわるすべての人々へ. 音楽之友社.
key words:室内音響学, 録音, ホール, PA
武満徹はかつてこう言った.
音は消える。
ちょうどインドの砂絵のように。風が跡形もなく痕跡を消し去る。
だが、その不可視の痕跡は、何も無かった前と同じではない。
音もそうだ。
聴かれ、発音され、そして消える。
しかし消えることで、音は、より確かな実在として、再び、聴きだされるのだ。
(堀元彰ほか編 (2006). 武満徹:Visions in Time (東京オペラシティアートギャラリー「武満徹 | Visions in Time」展公式カタログ). Esquire Magazine Japan:168. ※原典は「遠い呼び声の彼方へ」)
いつも過去形でしか聴くことができない, 音.
目には見えないし, もちろん手でも触れない. だから, 音を届けたいのに届かない, 聴きたいのに聴こえない…, ということがよく起きてしまう.
音は, いつも不思議で, いつだって少しもどかしい.
本書は, そんな音にかかわる科学的・現実的な手当として, 室内音響学の実践的な内容を48のトピックでまとめたものである.
「音楽にたずさわるすべての人々へ」とサブタイトルが付いているように, 実用的で分かりやすい解説が並ぶ.
練習録音時のレコーダーの置き場所や録音レベルの設定の仕方 (:32-39), ホールの形(円形, 正方形, 扇形, アリーナ型, シューボックス型, と, ホールには確かに様々な形状がある)と音響的特徴の関係 (:44-45), 広い舞台で少人数で演奏するときの注意点 (:51), 会場練習中の客席内音響のチェックポイント (:74-75), スピーカ配置のポイント(:102-103)など…, 気になる内容が並ぶ.
演奏者も, そしてオーディエンスも, この知識があればもっと音楽を楽しめるだろう.
この初級編に続いて, もう少し数字や実験データを取り入れた中級編も出版されればいいのでは, と思う.
音と響きの基礎知識: 音楽にたずさわるすべての人々へ
武満徹―Visions in Time