COMPOSIUM 2011:サルヴァトーレ・シャリーノの音楽
2011.01.17 / 東京オペラシティコンサートホール
震災の影響により5月から延期となった今年度のコンポージアム.
今回迎えられたのは1947年シチリア島生まれの作曲家シャリーノだ.
1曲目に演奏されたのは「オーケストラのための《子守歌》」(1967).
不思議な配置(1stヴァイオリンの後ろにはチェロがいて, 6本のコントラバスはあちらこちらに散らばっている)の巨大なオケと, いくつも吊るされた水の入ったガラス瓶(?)や巨大なトタンなど不思議なパーカッションが(演奏前から既に)印象的. 曲は, 聴いたことのない, 宇宙のような, 水の中のような…, そんな響きで始まった.
まさに新聴感.
巨大な楽器群が音を次々と受け渡していき, 響きのwaveがステージの端から端まで目に見えるように立ち上がる.
そんな響きの隙間から繰り返される寝息(Tpがマウスピースを咥えて呼吸する音)が見え隠れするチャーミングな作品.
ロビーに展示されていたスコアは真っ黒で, びっしり, 細かく書き込まれていた (パンフレットの解説によると70以上のソロ楽器).
大変な配置換え(大きな編成ゆえに, 1曲目の演奏時間と同じくらいかけてようやくセッティングが終了)のあと, 2曲目は「フルートとオーケストラのための《声による夜の書》」(2009).
Flは自身にこの曲を捧げられたマリオ・カローニ.
およそ30分の楽曲全体を通じて, その音色・スピード感の多彩さ, ダイナミクスレンジの広さに驚く.
「Ⅰ. 深淵の谷で」は唸り続けるチェロが印象的.
まるで2頭のセイウチのよう.
もしも言葉が無かったら, 人間はきっとこんな風にコミュニケートしていたのではないか.
色々な種類の放物線が登場し, 次々と円を描いていく.
「Ⅱ. 恐ろしい怪物の口」はtuttiによって繰り返される落下と, その上でうたうFlが印象的.
「Ⅲ. マリオ・カローリと王の虹色の輝き」ではtuttiにようやくメロディらしいメロディが登場し (落下は続く), 空間はまた違う華やかさを纏った.
3曲目は「電話の考古学:13楽器のためのコンチェルタンテ」(2005).
Fl, Ob, Fg, Cl, Hr, Tp, Vn, Vla, Vc, Cb, Perc (B.Drやゴングなど2人), Pfの13人によるアンサンブルは, コントラバスのひとりごとから始まって, 同じようなパターンを繰り返す. クロタルの黒電話の呼び鈴のような断片, ダブルリードの重音奏法によるレトロなエラー音のようなパルスが可愛らしい.
休憩を挟んで4曲目は「海の音調への練習曲:カウンターテナー, フルート四重奏, サクソフォン四重奏, パーカッション, 100本のフルート, 100本のサクソフォンによる」(2000).
上手にはFl, 下手にはSax(ソプラノからバリトンまで)が70人ずつ並ぶ.
副指揮者を挟んでその前にはPercを真ん中に, 上手にカウンターテナーと4本のSax・soli群, 下手に4本のFl・soli群が並ぶ.
これだけで異様な光景だ.
曲はsoli群Flの鋭い息とSaxのスラップタンギングからスタート.
弾ける水玉, ぶつかる水飛沫.
続いて, 空間を埋めるたくさんのFlとSaxたち.
立体感たっぷりに, 音が層になって届く.
ささやく, ささやく.
静かで透き通った響き.
中盤, キータップの音で会場中が埋め尽くされた.
まるで雨が降っているよう.
それをバックに漂うカウンターテナー (透明で自由自在. シャリーノがカウンターテナーを選んだ理由が分かる).
埋め尽くす雨音に距離感を全く失う (ここは屋外か?).
パーカッションも不思議な響きが次々登場して (途中響いた何かが割れるような音は植木鉢だったよう→安江佐和子さんのblog), 異空間をつくり出した.
終演は21:30.
「芸術家の役割は、新しいもの、夢、ユートピア、未来をつくり出したり見つけ出すことにある」シャリーノはそういう (webより).
その言葉どおり, 新しい感覚に満ちた時間だった.