9/27/2016

星ガ丘ワンダーランド


映画「星ガ丘ワンダーランド」
監督 柳沢翔 / 2015

日々の暮らしのなか, 誰にでも捨てられないものがある.
それはとてもプライベートで, 大切なもの.

心がバラバラになった夜, 赤い観覧車がみんなの心をやさしく照らしたのが印象的だった.

静かなピアノとやわらかなひかり, 美しい映像がこころに残る作品.

9/25/2016

角田光代&井上荒野&江國香織 トークショー


山形県生涯学習センター&山形小説家(ライター)講座コラボ企画
角田光代&井上荒野&江國香織:文学は三者三様-人気女性作家たち大いに語る
2016.09.25, 2 pm start / 遊学館(山形市)

今年で6回目になるというコラボ企画のトークショー.
今年は角田光代&井上荒野&江國香織の三人がゲスト.
司会は山形市在住の文芸評論家・池上冬樹氏.

1部は「何を読む? どう読む? 影響を受けた作品を語る」といった内容.
まずはじめにライター講座的な中身として, 準備されたテキストについての話からスタートした.
テキストは, 池上さんが影響を受けた作品だという森内俊雄の「短篇歳時記」より, 俳句(「ともしびや酢牡蛎と噛みし柚子の種」(永井東門居))をもとにして書かれた, 原稿用紙5枚のエッセイ.
荒野さんの感想は「淡々として滋味深い」, 江國さんは「俳句をもとにエッセイを書くというスタイルが面白い. 自分だったら牡蠣を主人公に書くかも」, 角田さんは「飲み屋でともしびの下ひとり飲んでいるストーリーにするかも」, といったものだった.
池上さんは, とにかく酒が美味そうなのがよくて, この作品が好きなんだという話だった.

続いて, 若いときに影響を受けた作家について話がおよんだ.
角田:太宰治, 内田百閒, 尾崎翠
江國:太宰治, レイモンド・カーヴァー, いしいももこ(翻訳家)
井上:井上光晴 (), 大江健三郎 (初期の短編), レイモンド・カーヴァー, ヘミングウェイ, サリンジャー (ナイン・ストーリーズ), マーガレット・アトウッド
それぞれ上記の作家の名前があがり, これらは繰り返し読む作家とイコールなのだそうだ.

そして, 作家に必要なことは?の質問には,
角田:作品を音読すること(声に出すと, 句読点の不自然さや回りくどい言い回しなどに気が付く)
江國・井上:いっぱい読むこと
ということだった.

さらに, よく耳にする「言葉が言葉を連れてくる」といった現象については,
井上・江國の両氏はあるといい, 角田さんは絶対にないという.
小説を書くにあたってそんなにしっかりとは計画を立てずに書くという井上・江國両氏に対して、しっかり綿密に計画を立ててから書く角田氏の違いが面白かった.

休憩を挟んで第2部は「どう書く? 世界をどう見る? 作家的生活とは?」といった内容について.
「どう書く?」といった質問に対しては,
江國:小説がはじまる前のことを考えてから書くが, あまりきっちりとは考えない.
井上:江國さんよりはもう少し考えるが, 終わりは決めない.
角田:人生ゲームのコマぐらい, ラストまで全部決めてから書く.
, それぞれの書き方の違いを聴くことができた.

また, 「終わりを決めないで書く場合, 実は違う終わり方が存在した可能性はあるのか?」という角田さんの質問に対して, 江國さんが「作者が思い描くストーリーはいくつかあるけれど, 物語が行くべきストーリーはひとつしかない. だから, 作者に出来ることは物語が行くべき場所の邪魔をしないことだ」と答えたのが興味深かった.

終演は1620.
貴重な話をたくさん聴くことができた, とてもゴージャスな時間だった.

(写真は帰りに寄った とんがりビルの屋上から)

9/23/2016

第68回全日本合唱コンクール東北支部大会・高等学校部門


68回全日本合唱コンクール東北支部大会・高等学校部門
2016.09.23 / やまぎんホール(山形市)

午前中はBグループ(33人以上)からスタート.
Bグループには20団体が参加した.
以下, 印象的だった団体についての覚書.

3, 山形県立鶴岡北高校音楽部(女声40人)は自由曲の2曲目にうたわれた「贈り物」(高階杞一/横山潤子 女声合唱曲集「笑いのコーラス」から)がよかった.
純粋な声で, あつい想いが届けられた.

4, 岩手県立盛岡第四(だいし)高等学校音楽部混声42人)がうたったのはプーランクの難曲 (Un soir de neige(雪の夜)」).
男声がもう少し安定するとなお よかったか.

6, 山形県立山形西高等学校合唱団(女声63人)は, 厚い声で100年という長い時間にしっかりと思いを馳せた自由曲(ラビンドラナート・タゴール(森本達雄)/信長貴富 女声合唱とピアノのための百年後「タゴールの三つの詩」から)がよかった.

7, 福島県立会津高等学校合唱団は今日の白眉.
男声25, 女声53人の合唱団で, 課題曲(「角を吹け」:北原白秋/市原俊明 「印象」から)の冒頭(厚い, 一体感のある男声でスタート)から, 色彩感のある響きを聴かせた.
自由曲はPendereckiの「Izhe xeruvimy(ヘルヴィムの歌).
滲み, 漂うハーモニー.
もの凄いスケール感で迫ってくるff.
その一方で, 消え入るような儚いp.
バスの不思議なドローンの上に複雑なハーモニーが織り重なる様は, まるで細密画を見ているかのよう.
全く違う世界を見せてくれた.

8, 岩手県立一関第一高等学校・附属中学校音楽部は男声20, 女声44人の合唱団.
課題曲(コダーイ「Szep konyorges」)に続いて歌われた自由曲はSamuel Barberの「Motetto on words from the book of Job」から2.
2曲目の「Job916-17Praise Him)」では2群の合唱団に分かれての掛け合いがあった.

9, 福島県立安積黎明高等学校合唱団(女声38人)は課題曲「じいちゃん」(まど・みちお/松下耕 「まどさんの詩によるみっつのうた」から)に透明感があってよかった.
ひとつになって, はっきりと聴こえてくる言葉が綺麗.
自由曲は萩原朔太郎/鈴木輝昭の「夢」(萩原朔太郎の詩による女声合唱とピアノのための《内部への月影》より).
スピード感, , 儚さ…, 様々に感情を掻き回すうた声.
小説のページを次々と捲っていくような昂揚感があった.

10, 青森県立八戸東高等学校音楽部(女声36人)は課題曲「木のように」(星野富弘/なかにしあかね 「悲しみの意味」から)をおしゃれに歌い上げた.
自由曲「治癒」(征矢泰子/森山至貴)もおしゃれに始まったが, その後はスケール感たっぷりに展開された.

休憩を挟んで午前の部後半, 16, 福島県立郡山高等学校合唱団は男声17, 女声41人の合唱団.
モンテベルディの課題曲(「Che se tu se'il cor mio」)がまとまりがあってしっくりくる演奏 (午前の部・前半でもこのモンテベルディの課題曲を歌った団体がいくつかあったが, ハーモニーをしっかりと決めるのはなかなか難しい(特に男声)印象だった).
自由曲の「風見鳥」(高田敏子/三善晃 合唱組曲「五つの童画」から)は息をのむ迫力.
難曲を見事に歌い切り, 目の前にその風景が広がるようだった.

19, 岩手県立盛岡第二高等学校(女声48人)は課題曲(コダーイ「Hegyi ejszakak Ⅲ」)の雰囲気のある始まり方がよかった.
自由曲は無伴奏女声合唱のための「秋:相聞」(磐媛皇后・額田王/高嶋みどり).
広い荒野を吹く風.
聴くものをどこか違うところへと連れて行った.

20, 岩手県立盛岡第四高等学校音楽部女声34人による合唱.
自由曲(鈴木輝昭・二群の童声(女声)合唱とピアノのための「森へ」から 2nd Scene(地球歳時記'90より)」)に大きな流れがしっかりとあってよかった.

昼食休憩を挟んで, 午後(1420~)はAグループ(8人以上32人以下)の合唱.

22, 福島県立安積黎明高等学校合唱団(男声11, 女声21人の混声)は課題曲(吉行理恵/池辺晋一郎 Little by Little」から「むらさきの」)にブレンド感があり安心して聴ける.
自由曲は谷川俊太郎/鈴木輝昭「愛」(混声合唱とピアノのための「もうひとつのかお」から).
こちらも一体感があってとてもよかった.

26, 岩手県立不来方高等学校音楽部(男声11, 女声21人の混声)は課題曲(モンテベルディ「Che se tu se'il cor mio」)がB部門のような厚みと安心感があった.
自由曲はバルトークの「Negy Magyar Nepdal」から2.
難曲なのに生き生きとした音楽が立ち上がり, 圧巻だった.

27, 宮城県聖ウルスラ学院英智高等学校合唱部(女声32人)は自由曲(Nagy LaszloKocsar MiklosTuzciterak(火のツィテラ)」)の声がまとまっていていい (もう少しメリハリがあればなお よかったか…).

36, 福島県立橘高等学校合唱団(女声26人)は, 課題曲でsopが少しぶら下がってしまうが, 厚みのある合唱を奏でた.
自由曲(与謝野晶子/信長貴富 女声合唱とピアノのための「君死にたまふことなかれ」)はスケール感大きく歌い上げられた.

38, 福島県立葵高等学校合唱団(女声30人)は, 素朴に優しく歌われた課題曲(「じいちゃん」)がよかった.
自由曲(新川和江/鈴木輝昭 女声合唱とピアノのための組曲「火へのオード」から「1. 終の日のわたしを焼く」)は難曲.
やや集中力が切れてしまった感があったのが残念だったか….

審査の待ち時間, 客席では男子生徒の呼びかけから出場校による合唱のリレーが始まった.
次の学校を指名しながらリレーされていくその様子に, うたはいいなぁ, と思う時間だった.
アットホームで優しい雰囲気なのがとてもいい.

審査結果の発表に先立って, 審査員を代表して千原英喜氏による講評が述べられた.
ppの表現においてもっと熱度や深さが欲しいこと, 瑞々しく新鮮にうたうことの大切さ, などが述べられる.
また, いまは世界中のうたをリアルタイムでうたうことができるが, 世界では様々なことが起きている.
どうか, 心のどこかに祈りの気持ちをもってうたい続け, コンクールを越えた人類愛をもって幸せになって欲しい, とのあたたかい言葉で締めくくられた.

全ての終了は20 ().
外は小雨模様だったが, ホールのなかは夜までアツい一日だった.

9/17/2016

荒井良二と野村誠の村山じゃあにぃ〈村山温度〉

YAMAGATA BIENNALE 2016
荒井良二と野村誠の村山じゃあにぃ2016〈村山温度〉
2016.09.17, 2 pm start / クアハウス碁点(山形県村山市)



会場となったのは, 今は使われていない温泉施設.
バブル期につくられたものなのか, さまざまな種類の浴槽が豪華に配置されている.
座布団を手にした観客(80人ほどだろうか)は, それぞれ自由に腰を下ろしてライヴを楽しむことになる.
入口で配られるワンドリンクは, (温泉といえばこれ) 瓶の牛乳やコーヒー牛乳などだ (前売りチケットには, このワンドリンクと温泉入浴券 (新浴場), そして村山のお土産箱(ひっぱりうどんのセット)が付いてくる).
大浴場は女湯と男湯(それぞれ「荒井湯」と「野村湯」と名付けられている)が中で繋げられていて, 自由に行ったり来たりすることができる.

プログラムディレクター・宮本武典さんの諸注意(「約3時間を予定していますので, 途中温泉に入って来ていただいても…」)に続いて, ライヴはゆったりとスタートした.

浴場の壁面に指を使って絵を描き始める荒井さん.
その傍らで, 野村さんの鍵盤ハーモニカのインプロが始まる.
さすが お風呂場, 音がほわほわと響いて心地よい.


言語を介さない二人の会話は, 見ていて(聴いていて)のんびりと落ち着く.
途中, 歩き出して向こうの浴場へと行く野村さん.
天井でふたつの浴場は繋がっているので, 鍵ハモの音が天井の向こうから聴こえてくるのだった.

やがて, 不思議な唄(「村山よいとこ」「寒暖 寒暖!」(笑)…)を歌いだす荒井さん.
次々と顔を変えていく壁面の絵も面白い.

途中30分のオフィシャルな(!)休憩を挟んで, 後半は野村湯にメイン会場を変えてスタート.


今度は荒井さんが足踏みオルガンを弾くなか, 野村さんがライヴペインティングをスタート.
途中で交代し荒井さんが描き始めると, 野村さんが描いた可愛らしい幾何学模様の絵がどんどん表情を変えていった.

ときにcool, ときにナンセンスに, ときに懐かしく漂う音楽.
それをゆったりと思い思いに聴くお客さんたち.
まったりとした時間だった (でも…, 3時間はちょっと長すぎたか…?).

最後は会場の全員で「みんな じゃあにぃー」と叫んでおしまい.
アンコール代わりに再び「村山よいとこ…」が歌われて, 終演(17時)となった.

(寒くなってきて, 温かい三年番茶(最近ハマっています!)が美味しい季節になりました)

9/04/2016

井上章一 京都ぎらい


井上章一 (2015). 京都ぎらい. 朝日新聞出版.

key words:ひちじょう, ひっちょう, しちじょう, ななじょう

「行政上、京都市にはいっていても、洛中の人々からは、京都とみなされない地域がある。街をとりまく周辺部、いわゆる洛外の地は、京都あつかいをされてこなかった。」(:15)と語る筆者は, 右京区の花園で生まれ嵯峨で育った, 洛中の人からみれば「京都の人ではない」人間なのだという.
「京都の人」(と, いってしまおう…)がたとえば県外からの移住者を「よそもの」と区別する様はなんとなく共有されているような気がするが, 同じ京都市内においても, 洛中と洛外とでは全く事情が違うようだ.
「こういうことで私を自意識の病へおいこむ毒が、京都いう街にはある」(:16)らしい.
筆者は, さまざまな場面で感じる千年の古都のいやらしさ(「洛中的中華思想」(:186))を, 面白おかしく(腹のなかは恨みでいっぱいなのかもしれないが…)書き募る.

筆者は「非課税のお布施として処理されてしまう」寺の拝観料についても, そのいやらしさを指摘する (112).
さらに話題は日本史や日の丸・君が代にまで及んでいくのだった (建築学者である筆者の, 寺(=武士へのおもてなしから美しい庭園が整えられていった)の歴史をホテル経営の側面から読みとく視点(:124)は面白かった).

「七は「ひち」である」とサブタイトルが付けられたあとがき(:213)まで, 筆者の恨みは繰り返し述べられるのだが (), 読んでいて面白い一冊.

(今夜のNHK・クラシック音楽館, 最後の指揮者・広上淳一さんとヴァイオリン・篠崎史紀さんの対談がとっても面白かったです)