佐藤雅晴 東京尾行(ハラドキュメンツ10)
2016.01.23 - 05.08 / 原美術館
エントランスの不思議なアニメーション(「バイバイ
カモン」)を通って中に入ると,
最初の展示室はほぼ四角い部屋 (「Calling ドイツ編」と「Calling
日本編」).
隣り合う二辺にスクリーンが配置され, 日常の一コマ(どちらの画面でも電話(ケータイ, 家の電話, 公衆電話…)が鳴る)が次々と映し出されていく.
提示されるのは, 実写を完璧にトレースしたアニメーションだ.
現実から少し浮いた不思議な世界を創り出す.
人間は登場しないが, いずれも人間がいたその温もり, 残り香のようなものを映し出す.
いったい人間はどこへ消えたのだろうか….
最初の展示室を出た廊下には, いちごのショートケーキ2つが写された作品(「1×1=1」)が展示されていた.
同じようでいて少し違う2つのケーキ.
ずっと見ていると眩暈を起こしそうだった.
2つめの展示室には12台のモニターテレビが並び, それぞれ異なる風景を映し出している
(「東京尾行」).
この展示室で観られるのは, 公園, 国会前, 家の中, 行き交う人々など, 東京の一風景.
その一部分だけをトレースしてアニメーションにした作品が並ぶ.
こちらの方が「Calling」よりも断然不思議だ.
自動ピアノが「月の光」を奏でる異空間で
(ピアノの音もまたトレースされたものということ), 「トレース」=「尾行」の違和感・不思議を味わうことができる.
(「尾行」という言葉は, 観るものにまた違う見方をさせるのだろう)
2階では, いわゆる「男の娘」を写したモノクロのポートレート(「ポートレイト 06」, 言われなければ男だか女だか分からない), 薔薇の花を写した作品(「バラ」, 造花なのだという. これも言われなければ(言われても)全く気付かない…)が展示される.
真実とは何か?を作家はぐらぐらと揺さぶる.
ギャラリーⅤの奥の小部屋では, モノクロのアニメーション作品(「トイレットペーパー(ナイン・ホール)」)が映されていた
(奈良美智の部屋の真正面).
トイレットペーパーを逆さに引きちぎり続ける手が描かれる.
それ以上のことは何も起こらない, 不思議な作品だった.
今回の展示は, NHKの日曜美術館のアートシーンで観て以来, 気になっていた展示.
日曜美術館で, 「実際に自分が撮影した映像を絵に書き起こしていく段階で, その映像を食べている感じなんだ」というようなことを佐藤は言っていた.
そこには自分の意識が逆に働いてないから, 作品を見た人が色々と感じてくれる可能性もある, と.
なるほど, そうして作り出された作品を, 私たちはまた私たちのやり方で食べるのだろう.
新感覚の作品たちだった.