水戸室内管弦楽団 第95回定期演奏会 東京公演
2016.03.29, 7 pm
start / サントリーホール大ホール
客席は満席.
予定されていたプログラムに先立って, ティンパニ奏者を悼みモーツアルトのディベルティメント2番(ニ長調, K.136(125a)より第二楽章)が献奏される.
やわらかい弦楽合奏の響きが, 一瞬にしてホールの空気を変える.
所々うたいながら指揮をするマエストロ.
弱奏部がことさら美しく印象的だった.
切ない, 淡い記憶のような音楽.
音楽が終わり, ステージ上がゆっくりと暗転し, しばらくしてから静かに小澤は腕を下した.
いったん全員がはけて, チューニングののちプログラム1曲目が始まった.
シベリウス作曲, 劇音楽「クオレマ」作品44より「悲しきワルツ」.
指揮者無し, 雛壇を一段しか使わないオケの編成.
音楽はコントラバスのpizz.からスタート.
妖しく, 陽炎のように動き出した.
時折出てくる明るいワルツの華やかさと, 悲しみのざわめきのような奥深さが交差する.
どちらの性格も豊かさと繊細さの両方で奏でた.
オーケストラの小ささを全く感じさせないのはアンサンブルの力だろう.
続く2曲目は, モーツアルトのクラリネットコンチェルトイ長調
(K.622).
モーツアルトが亡くなる年に書いた最後のコンチェルトだ.
ソリストはリカルド・モラレス.
第一楽章から, ソリストが絶品.
明るくて軽いのに深い音色.
そしてシャルモーの豊かさ!
自由自在にあちらこちらを行ったり来たりする様がホントに見事だった.
続く第二楽章は, 切ない弱奏と たっぷりとした強奏のコントラストで最初から聴かせる演奏.
第三楽章は明るく軽快なロンド.
ここでもClがまるで歌っているかのように自由自在.
どんな速いパッセージも凸凹なく軽やかで心地よい.
オケも反応がとてもよく, 自然に流れて寄り添う感じだった.
20分の休憩後, 本日のメインはベートーヴェンの交響曲第5番 (その前に, 天皇・皇后両陛下が客席へ入場!).
マエストロは(譜面台は立てているものの)暗譜, 指揮棒無しのスタイル.
第一楽章, 冒頭動機がエッジの効いた音で力強く奏でられた.
ひとつひとつの仕組みがよく分かる聴かせ方.
第二主題を呼ぶHnはsf(fp)のように鋭く奏でられる.
アンサンブルの機動力を生かした細かいやりとりが見事に決まって, 思わずにんまりしてしまう.
ベートーヴェンをこんなに新しいと感じるとは….
なんとも不思議な経験だった.
力強く残響を残して第一楽章が終止したのち, 椅子に座って水を飲むマエストロ.
たっぷり間を取って, 第二楽章は格調高くスタートした.
管がまたどれもいい (ホントに名プレーヤー揃い!もちろん弦も).
こんなオケがあっていいのか
(笑).
こんなにも楽しく生命力ある幸せな第二楽章は初めてだった.
再びたっぷり間をとって, 第三楽章がスタート.
強奏と弱奏のコントラストをはっきりさせ, fはことさら堂々と, pは不安げに響かせる.
そしてアタッカで第4楽章へ.
パワー漲る演奏で疾走した.
春, あるいは夜明けの音楽.
クライマックス, いったんテンポを戻して再びaccel.を掛け力強くテーマの再現へと突き進む場面に, ベートーヴェンの音楽の神髄(ちょっと大袈裟ですが…)を見た気がした.
水戸室内管は, サウンドが抜群によい.
そして, とてもあたたかく, アットホームなオケだ.
演奏を終えて, オケみんなと握手するマエストロの姿が象徴的だった.
会場は総スタンディングオーべーション.
熱烈なカーテンコール(終わらないんじゃないか…と思った)が計4回続いて,そのたびに全員で引っ込んで, また全員で出て来てくれるオケとマエストロ.
ここでも, マエストロは決して真ん中には立たず, オケが主役だというスタンス.
カーテンコールは15分に及んだ.
終了は21時10分.
音楽は一期一会なんだということを, 改めて思った時間だった.