3/11/2012

中村文則 王国


中村文則 (2011). 王国. 河出書房新社.

key words:遠くに見える月, 満ちた赤い月, 静かな月.

「一番欲しいものは手に入らないと気づいたのは、いつの頃だったろう。」(:3

物語は主人公の, まるでラストを暗示するかのような独白から始まる.

「世界は、システムによって成り立っている。……だから好きなんだよ、こういう、システムから弾かれ、虐げられている存在達を見るのが」(:39)と口にする矢田という依頼主からの指示で, 娼婦のふりをしながらターゲットとなる男に近付き, 彼らにとって不都合となる写真を撮る….
それが主人公の仕事だ.

塗り重ねられる悪と罠.
裏切り.
そしてそのバックにいるのが, 掏摸」に引き続き, 木崎である.
やはり素性は明かされない.
児童養護施設にいた子どもの頃の主人公を見て, 「お前の物語を、つくってやろうと思った」(:92)という木崎.
ラストシーンで, 裏切った主人公に拳銃を当てながら「お前の運命は、俺が握っていたのか。それとも、俺に握られることが、お前の運命だったのか。……だがそれは元々、同じことだと思わんか」(:161)という木崎.
自分の運命を操られる恐怖を, 主人公は内側からも外側からも感じる.
その描写がとてもスリリングだ.

「掏摸」の「塔」に代わって, 本作では「月」がその役割をもって登場する.
ラストシーンでも木崎の向こうに月は光っているのだった.

「掏摸」の印象が強すぎたので, 比べれば正直ちょっと物足りなさがあるが (特にラスト), それでもどんどん読みたくてドキドキする文章だと思う.
小説を読むということは, こんな経験をもセットで連れて来てくれる.

王国
掏摸(スリ)