川上未映子 (2011). ぜんぶの後に残るもの. 新潮社.
key words:日々の暮らし, リズム
本書には小説家が思ったり考えたりしたこと, 気づいたことが, あの特徴的なリズムで書かれている (読点で区切りながらテンポよく次々と紡がれていく文章).
連載は去年の3月を前後して書かれているので, 本書には震災についての文章も含まれている.
そのなかでも, まえがきとして書かれた本書のタイトルと同じ「ぜんぶの後に残るもの」という文章が印象的だった.
ある日 南三陸町のホテルの浴場で目にした母子の「なんというのか生命力としか言いようのない強さ」やその輝きにふれ (:2), 「町の記憶は匂いや光や言葉とともに、あの筆舌に尽くし難い圧倒的な生命力と分かちがたくわたしのなかにある。津波にも地震にも奪いきれないものが、わたしたちのなかにはある。」(:3)と川上は書く.
それと同時に, あとがきで小説家は正直にこうも書く.
「けれどもまだ全然、なにかが致命的に足りないような気がしてる。これがなんであるのかを知るには、もっとたくさんの時間が必要なのだとは思うのだけれど。」(:189)と.
五官を使って書かれた小説家の文章のその先へとイメージを膨らませるのは, 今度はもしかすると読み手の五官なのかもしれない.
(それが五官を使って生み出された自らの声, 記憶, イメージなのであれば)きっとそれは何にも奪い去られることはないだろう. そんなことを思った一冊だった.
そして, そんなことを読み手に考えさせる小説家という仕事は, やはりとても素敵なものだと思うのだ.
ぜんぶの後に残るもの