西加奈子 (2016). まく子. 福音館書店.
key words:子どもから大人へ, サーイセ
主人公である慧は, 大人や女性に向かって変身していく女子たちを前に, 自分は変わりたくない, 大人になりたくないと思う11歳の少年だ.
彼ら・彼女らの間にある「子供をやめかけた」変な空気(:16)に, 慧は「みんなが変わってゆくのが」怖い(:29)と思っているのだった.
そんなとき, 慧は美しくも不思議な少女・コズエと出会う.
母一人娘一人, 慧の旅館へ住み込みで働くために引っ越してきたコズエは, 「まく」ことが好きだった.
コズエは, 砂や水, 色々なものを撒いた.
そしてコズエと慧は, 毎日のように集落にある「石垣をほじくって、石粒を拾って投げ」るのだった
(:44).
ある日, コズエは慧に自分は「土星の近くにある星から宇宙船に乗ってやって来た」(:72)のだと告げる.
コズエはとにかく不思議な少女として描かれる.
そんなコズエは, 慧とは反対に, 大人になることを「私は楽しいな。」(:138)と言う.
自分の周りにいるあまり尊敬できない多くの大人たちを目の当たりにしている慧は, 自分が大人になって死んでいくことを怖いと思っている(:139)のだった.
慧は, そんな自分の姿を, せっかく作っても最後にはぐちゃぐちゃに崩されて燃やされてしまう集落の祭の神輿になぞる
(:140).
そして, 誰にも言えない胸の内を, コズエにだけは伝えるのだった.
小学生特有の想いや悩みを, 作家はまるで自分がいま小学生であるかのように生々しく描く.
物語はラスト, UFO(?)に乗って帰って行くコズエの姿を描く
(:231-).
これが, なんだかそんなに違和感なく(!)描かれるから不思議だ.
最後, コズエは慧らの頭上から光の粒をまく.
そして, その光に包まれながら, 慧は思うのだった.
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「小さな永遠を、終わらせないといけない。」
コズエの言うことが、ぼくにはわかった。今、分かった。
ぼくたちはいずれ死ななければいけない。絶対に、死ななければいけない。温泉も、石垣も、木々も、いずれ消える。それは恐ろしいことだけど、永遠に残るものよりは、きっと優しい。永遠に残るものはきっと、他のものに粒を与えられないものだ。他のものと、交われないものだ。
ぼくたちは、誰かと交わる勇気を持たないといけない。
ぼくたちは、ぼくたちの粒を誰かに与える勇気を持たないといけない。(後略)(:236)
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生きることの不思議, 大人になることの不思議について, 誰もが一度は考えてみたであろうことを, いまは大人になったかつての子どもたちに, 作家はまざまざと再び見せてくれるのだった.
作家自身の手によって, 表紙や本文中に描かれるたくさんの装画・挿絵がとても可愛らしい.
暗闇で光る(!)表紙カバーも素敵な一冊.
(10年ぶりくらいにお邪魔した天神乃湯. すっかり綺麗になっていて, びっくりしました)