村田沙耶香 (2016). コンビニ人間. 文藝春秋.
key word:光に満ちた箱
なんで○○じゃないの? なんで××しないの?と, 世間一般の価値観から外れた行為に対して理由を求められ, そのたびに相手が(世間が)納得する模範回答をしなければならない.
その鬱陶しさを感じた経験は誰にでもあるのではないか.
村田は「コンビニ人間」の目からその窮屈さ, 無意味さを冷やかに炙り出す.
それも, 「コンビニ人間」本人にはそんな窮屈さすら無意味であるかのように.
コンビニでアルバイトとして働く古倉恵子は, きびきび, 丁寧にかつ完璧な仕事をする36歳.
スマイルマート日色町駅前店の「コンビニ店員として生まれる前」(:7)は少し変わった子どもだったりしたのだが, コンビニでは上手に「人間」をする方法を身につけ
(:29), 複雑な人間関係が必要ないコンビニを愛しているのだった.
自分が思うまま素直に発言をすると, 他から「不気味な生き物を見るように」扱われ, 「あ、私、異物になっている。」(:77)と思うことが主人公には何度もあった.
一方, コンビニという社会(集団)では, 指示通りに行動すれば, 私は「使える」道具(:79)で居続けることができた.
そのため, 古倉恵子はコンビニで長い間生きてきたのだった.
そこへ婚活目的でバイトへやって来た白羽という男が現れる.
そこから, 彼女の平穏な18年の生活が変わり始める.
恋愛感情はまったくないが, 色々と考えた末に彼と一緒にいる方が都合がいいと考えた主人公は, 白羽へ自分と婚姻届を出すことを提案し(:86)同居生活(本人の言い方でいえば
「白羽さんを飼い始め」た(:106)のだが)をはじめる.
一時は順調だった白羽を飼いながらのコンビニ店員生活だったが, やはりやがて限界を迎えることになる.
実の妹からも遂に匙を投げられ, 唯一の生活の場であったコンビニも失った主人公は, 堕落した生活を送り出すのだった.
(もともと, 主人公は朝にコンビニへ行くことで「朝という時間が、この小さな箱の中で正常に動いているのを感じ」(:6)「私は世界の部品になって、この「朝」という時間の中で回転し続けている」(:同)のを感じていたのだ)
そして物語の終盤, 就職試験の面接を受けるべく半ば無理やり白羽に外の世界へ連れ出された主人公は, やはりコンビに捕まってしまう.
怒鳴る白羽に主人公がいうセリフがある.
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「気が付いたんです。私は人間である以上にコンビニ店員なんです。人間としていびつでも、たとえ食べて行けなくてのたれ死んでも、そのことから逃れられないんです。私の細胞全部が、コンビニのために存在しているんです」(:149)
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傍から見れば狂気の沙汰だが, そういう本人はいたって冷静で熱意に溢れているのだった.
短い話を一気に読み終えて思うのは, はたしてコンビニ人間であることを改めて再確認した(できた)主人公の生き生きと幸せそうな様子に, コンビニ人間ではない人間はいったいどう声をかけるべきなのか, ということだ.
幸せも何もかも, すべては個人が決める.
そういえばそれまでだが, それでは人間とは, 社会とはなんなのか….
本書の射程はとても広い.
(写真はこの間お邪魔した山形市「HACHINO'S」のビーフカレー. 素朴なのに奥深い. チーズケーキもホロホロと美味しかったです. カレーといえば, 仙台の楽天ハンモック, 4月17日に閉店したんだそうですね…)