8/28/2016

山形小説家(ライター)8月講座


山形小説家(ライター)8月講座
2016.08.28 / 山形市・遊学館

今月30日に期限を迎える花巻・マルカン大食堂のクラウドファンディングの行く末が気になるところですが… (お箸で食べるソフトクリーム!), 今日は山形市の遊学館へ.

はじめて参加した「山形小説家(ライター)講座」.
今回の講師は村田沙耶香さん.
コーディネーターの池上冬樹氏と, 文芸春秋社と朝日新聞出版社からふたりの編集者を交えて, 前半は参加者の作品批評が行われた.

4人の作品がそれぞれ検討されたが, 編集者の視点は流石.
そして, 卒論を擬音語と文学について書いたという村田さんが指摘した, 「擬音語は細心の注意を払って(練りに練ったうえで)使うべき」といった意見も面白かった.
すごいスピードで(!)4作品について意見が交わされた.

後半は池上さんと村田さんのトークショー.
横浜文学学校(よこぶん)へ通っていたという村田さんの話が印象的だった.
そこで講師である宮原昭夫に言われた教えは「小説は楽譜」だというもの.
それは「読書は音楽にたとえると演奏なのだから, あまり作り込みすぎてたったひとつの読み方しかできないのはよくない」というものだったのだそう.

「コンビニ人間」の裏話もいろいろと話してくれたが, 「白羽は自身が書いた中で一番嫌な男だが, 書いていてとても楽しかった」, とおっしゃっていたのが面白かった (主人公があんな性格ではなく, これまでの作品に登場するような強い性格の主人公だったら, たぶん白羽さんは殺されていただろう (), とも…. ちなみに, 最初は知らないおじさんを飼う話だったらしい…)

その他, 自分は(書くことを)サボってしまいがちなので, コンビニでバイト生活(週3, 8時から13時までバイトをしていた(現在はお休み中)のだそう)をして世界のリズムを生み出しながら書いた方が書けると気が付いたということ, 小説を書くときには登場人物の年表や似顔絵, 家の間取りなどを人物ごとにつくって書くのだということ, など, 話題は多岐にわたった.
村田さんの, 「世界の違和感やコンプレックス, 苦しさの中で自分は生きてきたので, そんなことを感じている主人公が多い」といった話も印象的だった.

密度の濃い2時間半だった.

(今日, 山形市の街中では「とっておきの音楽祭」が開催されていました. 写真は紙月書房のハヤシライス!)

8/15/2016

八戸・十和田・酸ヶ湯・黒石

5時起きで, 陸奥湊へ.

まずはみなと食堂.
6時前に到着したものの, 既に満席!

残念ながら今日はエンガワは無いとのことで, 平目漬丼(せんべい汁セット)とイカ刺しをいただきました.
平目漬丼は甘目のタレと卵が最高.
せんべい汁はほっこりする味.
イカも甘くて絶品 (とっても綺麗!).

駅前の市場へ戻って, 八戸市営魚菜小売市場の先の魚屋さんで, 人生初・ホヤを買ってみる.
一盛り500の中からひとつだけいただいて, 剥いてもらう (豪快!).
それを市場のおばあちゃん(イサバのかっちゃ!)に切ってもらって(優しい…)焼きウニとともに「朝めし処 魚菜」でいただく.
今が旬だというホヤでしたが…, なかなか大人の味でした.

焼きウニは甘くてとっても美味しかったです.

市場の先にはこんなに素敵なコーヒースタンドもありました.
一杯ずつペーパードリップで淹れてくれる珈琲がなんと一杯120円!
素敵です.

再び電車に乗って, 鮫へ.

いい天気のなか, のんびり歩いて蕪嶋神社へ.
島を3周しながら, 蕪と瓢箪を撫でてお参りして来ました.

八戸へ戻り, 八色センター(すごい人!)でお土産を購入した後, 十和田へ.


十和田市現代美術館を満喫して, 蔦温泉へ.

山の中の一軒宿.
お邪魔した泉響の湯は, 天井が高い, 木造の素敵なお風呂.
サラッとした泉質で気持ちよかったです.

そして酸ヶ湯温泉へ.
ヒバ千人風呂, お湯はぬるぬるの真っ白.

城ヶ倉大橋を渡って, いざ黒石へ.

妙光食堂の「元祖つゆやきそば」.
やきそばと言いながら, ラーメンどんぶりで出てきます.
ソース味で揚げ玉が入っているのが, 不思議と合って美味しかったです

十和田市現代美術館 「シンシアリー・ユアーズ」


シンシアリー・ユアーズ:親愛なるあなたの 大宮エリーより
2016.05.28 - 09.25 / 十和田市現代美術館

大宮エリーの美術館で初めての個展だという.
その前に, まずは初めて訪れた常設展から.

美術館の建物がある道路向かいには, 草間彌生らのパブリックアートが並ぶ.
思わず駆け寄ってしまった (), 魅力的な空間.
間違いなくこの町の景色を変えている作品たちを, 最初から楽しめる.

2008年にオープンした美術館には, 21人の作家による22の作品が常設展示されている.
ジム・ランビーによるビニールテープのエントランスから, 早速わくわくさせられる.
その先は, 屋内外の大小さまざまな作品を観ながら(見つけながら)明るい通路を歩いていく仕組み.
実物なのか映像なのか, いったいどうやって作ったのか…, 仕掛けもたくさんあって, 不思議な作品の数々を楽しめる.
(大分前, 都現美のカルティエ現代美術財団展で観たロン・ミュエクの作品も間近で楽しめる. 巨人は血管や肌の質感, しわまでリアル!)

続いて, 大宮エリーの企画展.
手紙を書くように描かれた絵なのだという.

最初の展示室では, 静かだけれど力強く動きのある大きな作品が並ぶ.
色の濃淡が心地よい.
ずっと見ていると立体的に浮かび上がってくるようだった.

第二展示室では, さっきとは一転, 明るい色使いの柔らかい作品たちが並ぶ.
たくさんのスマイルが優しい空気をつくりだす.

第三展示室へと続く通路の壁に並ぶのはささやき声の絵.
万年筆による可愛らしいドローイング作品が続く.

第三展示室に飾られるのは希望の海.
虹から降る色とりどりの雨が印象的だった.

会期中, おおはた雄一や原田郁子らミュージシャンとのライブペインティングも開催されたようだ.
大宮エリーの商店街美術館(作家曰く「どんどん出来上がっていく参加型の美術館」)も同時開催されている.
企画展の場所は街のなかで, アートが空間を(人が集う)場所へと変える様は, Arts Towada」のコンセプトそのものだ

8/14/2016

八戸

八戸へ.

3日前に取れた(!)チケットで東北エモーション(八戸‐久慈)へ.

料理も景色もサービスも, そして車内に流れる半沢さんのさりげない音楽も, とっても心地よい.
ゆっくりご飯をいただきながら, 流れて行く夏の海と空を眺めて…, 素敵な時間でした.

久慈から, 三陸鉄道・北リアス線に乗ってみる.
こちらも, 電車に揺られてのんびり (各駅には愛称のようなものもあって, アナウンスで土地のことを紹介してくれます).

陸中野田のホームはほのぼの, なんだか懐かしい光景.
あれから5年. 

三鉄・久慈駅のリアス亭で買ったウニ弁当を携えて, 久慈からリゾートうみねこへ乗車.
45 車窓の方へ椅子が回転して, 海を見ながらのんびり過ごすことができます.

ウニ弁当.
蒸したウニはとっても甘い!
お米もウニを混ぜて炊いてあって, 風味豊か.

本八戸駅で降りて, はっち(八戸ポータルミュージアム)へ.


夜は半袖では凍える寒さ….
北の街です

8/13/2016

小林エリカ マダム・キュリーと朝食を


小林エリカ (2014). マダム・キュリーと朝食を. 集英社.

key words:〈マタタビの街〉, 「町人の食卓」(ムノン), 尻尾の短い妹

西加奈子「まにまに」で紹介されていたのを思い出して, 面白そうだと手に取った一冊.
何も知らずに数ページ読んだところで, 出版日を確かめる.
原発の事故後に書かれた本作には, 放射能が光として現れるのだ.

物語は, 夢のようだった〈マタタビの街〉での生活を想いながら東の都市で生きている猫(わたし)と, パパとふたりきりで同じく東の都市に暮らす小学五年生の少女・雛の話を交互に提示する.
猫であるわたしは, 〈マタタビの街〉でのまだ母がいたころの自由な生活に思いを馳せ, 雛は亡き母やその母の母に思いを馳せる.
猫であるわたしは, 放射性物質を光として見ることができ, 光る猫であるタマゴ(かつてキューリー夫人の近くにいてラジウムの放射能を浴びていたのだろう. だから彼(?)は光る)との出会い(:21-)を通じて, 光のなかに潜って過去や違う場所へと跳ぶことができるようになる.
一方, 雛の母や祖母(や曾祖母(:47)…)は「光の声」を聴くことができた.
彼女の母はその声の話を雛に聞かせるのだった (28).

この不思議な物語に, キューリー夫人やエジソンについての伝記的な記述, 象のトプシーや原子力実験の話, そして「録音メモ」と称される雛の母親がICレコーダーに残した不思議な(不気味な)記録 (115), が織りこまれていく.
物語が, 時間や場面, 記憶が次々と入れ替わるのだが (それはまるで猫がぴょんぴょんと飛び跳ねるように), その刹那, 儚さが, この小説自体をどこか神がかったような, 人智の及ばないものに変えている感じがした.

ラストはたくさんの出来事が走馬灯のように駆け巡り, 繋がる.
それはまさしく光のごとくスピード感に溢れるやり方で.
猫であるわたしがついに妹の姿を目にするシーン(:163)は涙を誘う.
そして小説の終わりは, 光の声を聞きたいと願う少女・雛の決意を描く.
新世界に生きる少女はこれから先, いったい何をどんなふうに聞いていくのか.
なにせ, 光に託し残された記憶や声(光の痕(:166))は, 半減期の半減期の半減期の…, 人間や猫の一生よりもずっとずっと先まで長く残るのだから.

すごい小説を書く人だ.
はじめて読んだ作家だったが, 純粋にそう思った.

(写真は酒田市・とんかつ「わたり」さんのヒレカツ. 北極海で年齢392歳のニシオンデンザメが発見された, というnewsに驚きながら, 13日がやってきました. 今年も暑いお盆です)

8/12/2016

黒田夏子 abさんご


黒田夏子 (2013). abさんご. 文藝春秋.

key words:家事がかり, 改変者, 家計管理人, 金銭配分人, 配偶者

平仮名の多い, 読みにくく不思議な言葉が連なる.
それにもかかわらず次々と文字を辿りゆっくりながらも読み進めてしまうのは, 文章がとても美しいからだ (文体は全く異なるが, かつて平野啓一郎の「日蝕」に触れたときのような感覚でページを捲った).
長くゆっくりとした独白を聴くような(そう, まさに「聴くように」読んだ)文章は, 「よこぐみになっている, 恐らくは見なれない書きかたの作品」(:80)である.

物語は, 新しく引っ越した家(そこには二つの書庫と巻き貝状の書斎(:25)がある)に暮らす主人公の女とその父親, そしてふたりの家へやってくる「家事がかり」(:17)の, 奇妙な共同生活の様子を描く.
家事がかりは, 父と娘ふたりだけだった生活をどんどん侵していく.
そのまま「住みこみ人」となった家事がかりは, 当然の成り行きであるかのように「やといぬしを, 好きになってしま」い (33), 遂には結婚することになる.
そうして晴れて配偶者となった かつての家事がかりは, 最終的には, 「五ねんあまりのちにその家のひとり子が出ていっても, その二十ねんのちにやといぬしが死んだあとまでもその家に住みつづける」(:27)のだった.

ゆっくりと語られる事実の一方で, 登場人物の名前や容貌については何の記述もなく, 読み手にはこの顔のない人物たち(特に家事がかり)が不気味に思えて仕方ない.
また, 回顧録のような形を取っているため, 時間の流れも行ったり来たりし, 読み手を多いに困惑させる.
そして, それらの要因がこの作品をさらに神秘的なものへと変えるのだった.

物語のタイトルでる「ab」は, ふたつの選択肢, 分かれ道を表している (のだろう. 「さんご」はよく分からず…).
タイトル, 横書き, 文体, リズム, 不思議な表現, 無名の登場人物…, それらの総体としてひとつの優艶な作品が出来上がっている.
本を手に取って, その文章に触れ揺蕩うことがなによりも幻想的な体験である.

本書には表題作のほか, タミエという少女が登場する短編3作が収録されている (こちらは縦書き).

(道の駅にしかわ・月山銘水館の地ビールソフト. ノンアルコールです)