福岡伸一 (2015). 芸術と科学のあいだ. 木楽舎.
key words:ヴィレンドルフ村のヴィーナス (:182), ファーブルの言葉(:272)
日本経済新聞において2014年2月16日から2015年6月28日までの間に掲載された記事をまとめた一冊.
著者は「生物と無生物のあいだ」(講談社現代新書)などのベストセラーで知られる生物学者であるが, フェルメール好きとしても知られており, 芸術にも大変造形の深い人物である.
話題は多岐にわたって面白いが, 前半では米国に滞在し研究留学生活を送っていた時期に出逢った数々のアート体験について述べられる.
美しい写真や絵とともに, 文章がキラキラと読み手の中へと入ってくる.
後半では, フェルメールをめぐる話のほか, 科学の世界に見られるアート, そして現代アートについて話が及ぶ.
著者の芸術についての豊富な知識量に驚かされる.
「はじめに」で福岡は, 生物学をはじめとする科学においては, アーティスティックなセンス, つまりは秩序があるところにうつくしさを感じるセンス(:2)が要求されるという.
そして, 科学者と芸術家は, 「方法こそ異なるものの」, 「たえなまく移り変わりゆく動的な世界のあり方をなんとかして捉えたい・書き留めたいという」同じことを希求していたという
(:7).
そして, たとえば染色体が正しく分配される方法を「それはまるで名うての手品師が、トランプの札を何度もシャッフルしたあと、二つの山にわけてみせるとあら不思議、一方に黒札だけが、他方に赤札だけが集められているような、そんなアーティスティックなまでに鮮やかな手際なの」だと評したりするのだった.
芸術と科学のあいだ.
そこには大変スリリングで魅力的な世界が広がっている.
(写真は仙台市「かつせい」の特ヒレカツ. 最近もりもり肉食ばかり…)