夜, ラジオを点けるとちょうどNHK FM「クラシックの迷宮」をやっていました.
片山さんの話とメロディオンが大好きです.
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津村記久子 (2013). これからお祈りにいきます. 角川書店.
key words:高江垣先生の髪の毛, ヤシロさんの薬指
「サイガサマのウィッカーマン」(初出は2012年)と「バイアブランカの地層と少女」(2008年)の2本が収められている.
「サイガサマのウイッカーマン」は, 人体の一部を模したものを作り捧げる「サイガサマ」(おそらく小説の舞台である雑賀という大阪の町の名前からきている)という祭(神様)をめぐる話.
主人公であるシゲル(高嶋滋)は「自分の身の周りで起こるだいたいのことに怒っている」,「吹き出物だらけで皮脂が出やすい体質」(:10)の高校生だ.
イライラの理由はさまざまあるのだろうが, 引きこもりの中学生の弟やいつもピント外れのことばかり言ってくる母親, そして外で浮気をしているらしい父親の存在, そして彼が住む町にあるサイガサマの不思議な風習が彼を苛立たせる.
シゲルは小学生のときにサイガサマの自由研究作文で市長賞をもらったことがあり, この祭や神様については詳しい.
彼がかつて調べたところによると, 「サイガサマは、人間の体にとても興味があって、本気で何かを右から左へ動かす時は、願をかけた者の体の何かを取っていく。人間の体の一部から力を得て、その願いを叶えるという、ほとほと下等な神様なのだ。祈願する人は、どこを捧げるかは指定できないけれども、どこを取られたくないかは申し出られる。申請方法は、それを細工物の形にして、当時の祭の日に捧げられる人形に編んだ籠の中に放り込むことである。」(:14)ということらしい.
ある日シゲルは, あたらしくもうひとつ始めようとしていたバイトの面接先で, 小中学校での同級生・関塚暁子と出会う.
苦労しながらバイトを幾つもこなし将来へと向かう彼女や, 小学校のときの恩師である高江垣先生
(この高江垣先生がいい味を出している. 引きこもりの弟のことについても, 優しくシゲルに彼の想いを伝えてあげたりする(:127)のだ), 公民館での申告物教室の手伝いで再開したヤシロさん(シゲルは小学生の自由研究で役場のヤシロさんにインタビューしていた)へのシゲルの接し方や話し方が, いかにも思春期の高校生のようで微笑ましく描かれる.
また, 彼女ら・彼らとの会話によって苛立っているシゲルの心がほんの少しずつ溶けていく様子も, まさに男子高校生の日常のようになんとも上手く描写されるのだった.
日常を丁寧に描く, 筆力のある人が書いた文章だと思った.
小説の最後, ヤシロさんは左手の薬指の第二関節までを失ってしまう
(:150).
それを見てシゲルは一瞬驚くが, 「心臓が止まって生まれてきたヤシロさんの友人の赤ん坊が助かった、という話を思い出して、なぜか平静さを取り戻」す(:同)のだった.
最後まで, サイガサマはつくづく不思議な神様である.
本書にはもう一話, 地球の裏側のブエノスアイレスに住むフアナと(いつか)出逢うことを夢見る大学生・作朗の話「バイアブランカの地層と少女」も収録されている.
(写真は山形市みはらしの丘・炭火焼肉「meat meet」の山形牛ステーキ丼. すごいボリューム!そしてもう一枚は寒河江市のGEA (佐藤繊維がやっているオシャレなセレクトショップとカフェ). いただいたジンジャーエールは生姜が辛めで美味しかったです)