古内一絵 (2015). マカン・マラン:二十三時の夜食カフェ.
中央公論新社.
key words:ハナミズキ, キジトラの猫, 昆布
「マカン・マラン」
長い商店街の外れの細い路地の先, 中庭にハナミズキの植わった古民家にそのお店はある.
昼はドラァグクイーン御用達の「ダンスファッション専門店
シャール」だが, 夜は常連たちが集まるカフェに変わる.
ネットにも情報のない, 縁のある者だけが辿り着ける深夜営業の夜食カフェだ.
インドネシア語で「マカン」は食事, 「マラン」は夜を意味する (:14).
マカン・マランに集う面々は, 喪失感, 絶望, 寂しさ…, さまざまな感情に疲れている.
そんな彼女ら・彼らを癒すのが, 店主であるシャールが作る優しい料理と, 彼(彼女)の人柄だ.
シャールには人を引きつける不思議な力がある.
いつだって, そこにいるだけで, 誰もが自然と彼の話に耳を傾ける(:107)のだった.
ある日, 絶望するフリーライターの安武さくらにシャールはいう.
「苦しかったり, つらかったりするのは, あなたがちゃんと自分の心と頭で考えて, 前へ進もうとしている証拠よ」(:185)と.
四つのお話が収められていて, そのどれにも見ているだけで美味しそうな料理が登場する.
なかでも, 第三話までの登場人物が大集合する最終話「大晦日のアドベントスープ」に登場する「フォーティアチャン」というスープが, なんとも美味しそうだった.
あたたかい気持ちになる, 優しいスープのような一冊.
(写真は山形市・蔵王温泉「奥村そばや」の中華そば(最近少なくなった正統派の中華, また食べたくなる味)と,「さんべ」の「稲花餅」(甘いこしあんの入ったあたたかい小振りのお餅). そして下の写真は…, 大量の湯の花!)