円城塔 (2011). これはペンです. 新潮社.
key words:ペン, 夜
まるで哲学書のように, 何度も何度も同じところを読み返す (ふと「コップとコッペパンとペン」(福永信)を思い出したが, 「コッペパン」がそうであるところの 闇の中のマインドマップ的連想ゲーム(方向感覚が掴めないまま, 関係があるのか無いのかも分からないまま拡大していく地図)のような性格は本書にはない. 外に外にと拡がっていくのではなく, その反対に内に内にと突き詰めていく, そんなイメージだ).
「叔父は文字だ。文字通り。」(:7)
この一文から始まる表題作「これはペンです」で, 姪である「わたし」は, 文字である叔父が果たして誰なのかを探り, 文字である叔父を記すための道具を探す.
叔父は, 論文の「自動生成。機械生成。機械で生成された論文を学術誌に投稿しては、それらが掲載されたのち種を明かす論文を出」す仕事をした人だ (:10).
別の言い方をすれば,「言葉を用いて、言葉を書いた」(:15)人である.
本作は叔父をめぐる話であるから, 当然言葉についての話になる.
その記述がとても爽快でドキッとする.
たとえばこんな具合だ.
「わたしたちの言葉は個別に誂えられており、わたしたちの言葉はそのくせ通じる。そのくせ通じているように思えてしまう 」(:41-42).
叔父は世界中の様々なところから, わたしに様々な手紙を送って寄こす.
たとえばそれは「電子顕微鏡でなければ見えないような、分子を並べて描いた極微の手紙や、高分子で記号を編み上げてみた手紙」(:53-54)だ. わたしはそんな叔父からの手紙を大学の先生やコンピュータの知能を借りて解読していく.
そして, 自分の考えや行動を丁寧に自分で説明しながら, わたしの物語は語られていく.
わたしが磁石を鍋で熱する場面があるが (:26-28), その描写はものすごく子細だ. とても子細でとても小説っぽい (!), そんな部分がところどころにポロっと出て来るので, ギャグなのか真面目なのか, 全く分からなくなる.
不思議な文章だ.
そして最後に, わたしは叔父の正体へと辿り着く.
「叔父という存在とは、叔父を部分として含む何かの種類の非正規的な研究活動名だったらしいし、今もそうして活動している。」 (:86-87).
…さて, これは大真面目にナンセンスな, 驚くべき小説である (笑).
結局 叔父は誰で, そして叔父から理不尽に可愛がられるわたしは果たして何者なのか…. そうだ, 叔父は文字だった.
(「目覚めると、今日もわたしだ。」(:95)という一文で始まるもうひとつの話「良い夜を持っている」(「巨大な街を丸ごと覚え込むような特殊な記憶力を持つ父」(:109)を巡る話. ちなみにこの話にもタイプボールが登場する)も, 最高にcrazyで最高にcooool!)
これはペンです
これはペンです