綿矢りさ (2013). 大地のゲーム. 新潮社.
key word:大地の賭けに乗る。
舞台は, おそらく50~100年先の未来.
未曾有の大震災が街を襲い (おそらく日本の首都・東京か), そしてまた一年以内に巨大な地震が来るといわれている
(:30).
登場人物たちは, そんななか次の地震に身構えつつ大学内で共同生活を送る主人公の私をはじめとする大学生だ.
彼女ら・彼らは「反宇宙派」と名付けられたグループに所属しており, デモや集会を開いて活動している.
学生らの期待を一身にあつめているカリスマ的な存在が, リーダーと呼ばれる男である.
物語は, 私(恋人がいつつもリーダーの魅力に惹かれてしまう)と, 私の男 (リーダーを気にしている私に気付いている), リーダー, そしてマリという不思議な女(リーダーに近づき,
私に嫉妬させる存在)を中心に展開していく.
登場人物にはほとんど名前が付けられていない.
時代も場所も, 厳密には分からない.
(綿矢りさの作品には珍しく, 親近感を持てない一般名詞の人物たちによる, 未来の話だ)
「世界の割れる音を聞いてしまった」(:61)私たちは, それでも生き残ったことへの誇りと戸惑いを背負って生きている.
脆く危うい彼ら・彼女らの人間関係は, ある日 起こった「ニムラ」という男子学生の集団リンチ事件によってその均衡を崩すことになる.
そこでもリーダー性を発揮し集団をまとめたのはリーダーだった.
その一方で, 物語はその裏側にあった巧妙な政治を暴いていく.
やがて, 政府の予告どおり2度目の大地震が大学を襲う (:144-).
ここから物語はエンディングへと向けて加速していく.
この場面が手に汗握るスピード感で描かれ, 思わず惹きこまれる.
終盤, 小説の話し手が突然 主人公の私からリーダーへと代わり, 彼の本性が分かる場面がある
(:149-).
最後の最後に, 劇的なスイッチ・チェンジ.
「じっくりと時間をかけて手に入れようとしていた大学が崩れてゆく」(:152)様を彼の視線から描写する場面は, まるで演劇を観ているかのようだった.
物語はラスト, 人間の逞しさと, 誰かが側にいてくれることのありがたさを描く.
子どものころ, 最後はみんな死ぬんだぞと兄に言われ怖くて泣いていた少女は, 「私は土に還りたい。大地の一部になって、また新しく命の生まれる瞬間を、黙って見守っていたい」(:166)という大人になっていたのだった.
どんな災難に襲われようとも, 何度でも立ち上がる人間の姿が描かれる.
作品タイトルから, もっと人智の及ばないところでの終止を覚悟していたので, ちょっと意外なエンディングだった.
(写真は福島駅前の「伏見珈琲店」. 去年の5月にオープンした, カウンターだけの素敵なお店. ブレンドとエキゾチック(という名のフルーツがたくさん入ったロールケーキ)をいただきました)
(↓リンクは文庫本です)
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