河村尚子ピアノリサイタル
2013.11.10 / 白鷹町文化交流センターAYu:M
AYu:Mで, 画家・梅津五郎の没後10周年を記念した企画の一環として開催されたリサイタル.
演奏会と展覧会のコラボレーションの試みで, 今回弾いてもらう「展覧会の絵」は, 昨日から開催中の特別展(「森田茂・梅津五郎 師弟展」2013.11.09-12.08)に合わせて特別にお願いして実現したものだと, はじめの館長からのあいさつであった.
セットリストはドビュッシー「子どのも領分」, 軽快な「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」から.
河村にかかると, パルナッスム博士もなんとも楽しそうに聴こえてくる.
4曲目「雪は踊る」では, 上に舞い上がる雪のダンスが印象的.
続く5曲目の少し憂いを帯びた「小さな羊飼い」, おどけた6曲目「ゴリウォッグのケークウォーク」と, 曲によって全く異なる音色が紡ぎ出された.
続いて, 同じくドビュッシー「前奏曲集 第1集」より「雪の上の足あと」, 「亜麻色の髪の乙女」の2曲.
ペダルのヴェールを纏って柔らかく響くピアノの音.
「雪の上の足あと」は, 孤独, センチメンタルな世界.
でも, そこから滲み出てくる前向きな想いが伝わってくる演奏だった.
続いて演奏されたラヴェルの「水の戯れ」は今日の白眉.
水の精が微笑んで, とどまって, 流れていく.
水の中の柔らかく くぐもった音, そしてビロードのように滑らかに包み込む音….
あんな音がピアノから出てくるのか, と思ってしまう.
前半ラストはラヴェル「ソナチネ」.
音をひとつずつ置くように始まった第2楽章が印象的だった.
休憩を挟んで後半はムソルグスキー「展覧会の絵」.
MCでこの曲はこれまで弾いたことがなかったが, 今回挑戦してみて改めて曲の魅力を感じたという河村.
はじまりのプロムナードは快活に演奏された.
その後は古城の憂い, 市場の喧騒…, と, さまざまな表情を見せる.
それぞれのプロムナードの扱いと弾き分けも見事.
まさにプロムナードとして, 次の曲へとすっとガイドしてくれる.
何色も重ねられたような厚い響きでつくられた「カタコンブ」と, 姿勢正しく凛として始められた「キエフの大門」が特に印象的だった.
アンコールは, 「続けてロシアの音楽を」ということで「熊蜂の飛行」を.
そしてもう一曲, ショパンのワルツ・嬰ハ短調.
河村はイメージのピアニストだ.
情景が, 風景が滲んでくる.
ピアノ(p)の表現が殊更素晴らしい.
その音色, 質感の多彩さ.
さらりと, しっとりと, キラキラと, 滲んで, あるいは可愛らしく, 鈍く…, さまざまに柔らかい.
続くカーテンコールに応え,「フランスに留学していた梅津五郎さんに因んで, また師弟展に因んで…」ということでフォーレの即興曲が最後に演奏された (フォーレはラヴェルの師).
2分ちょっとの小品であったが, なんともロマンチックで余韻が残る演奏だった.
満席のホールを包み込んだピアノの音色の数々.
また是非聴きたいと思わせるピアニストだった.