舘野泉&ラ・テンペスタ室内管弦楽団(野津如弘 指揮) 77歳のピアノ協奏曲
2013.11.04 / 山形テルサホール
舘野泉フェスティヴァル:左手の音楽祭2012-2013の2013年日本公演として, 山形公演では3つあるプログラムのうちのプログラムBが演奏された (半分以上が弦だけのプログラムである「プログラムB」が山形で選ばれたのは, ヤンネ舘野の縁がある土地だったからか…).
前半のプログラムはヴィヴァルディの「四季」全曲.
ソロvnのヤンネ舘野を含む23人による演奏であったが, 軽快に始まった出だしが心地よかった.
休憩を挟んで後半はグリーグの「ホルベアの時代から作品40」.
爽やかに流れた「前奏曲」, 包み込む「サラバンド」, なんとも荘厳な「ガヴォットとミュゼット」, 哀愁をもって始まり愛情たっぷりのうたが溢れた「アリア」, そして音が軽やかに飛びまわった「リゴードン」. どれもとても清潔で心地よい演奏だった.
続いて舘野泉のソロによる吉松隆作曲「NHK大河ドラマ『平清盛』より遊びをせんとや・海鳴り」.
なんて優しい音だろう. ピアノという楽器はこういうものだと, 舘野はじんわりと伝えて来る.
そこに生まれるのはとても自然な音楽だ.
今日の演奏会パンフレット(:42)に引用されていた文章(六耀社刊『ソリストの思考術舘野泉の生きる力』)で, 「僕は体全体を使ってピアノを弾いている。ピアノは指で弾いているのではなく、呼吸で弾いているとも思う。心で呼吸するように音楽を続けることが出来れば、僕はこれからも生きていける。」と述べていた舘野.
まさにその言葉のとおり, 多彩な音が流れ(それはきっと呼吸)とともに紡ぎ出されていった.
88鍵を自在に飛び回る左手.
厚いハーモニーが柔らかく鳴る響きは, 両手によるピアノでは感じられないもの.
呼吸とペダルによって作り出される新しい響きだ.
セットリスト最後は, 同じく吉松隆による「左手のためのピアノ協奏曲「ケフェウス・ノート」Op.102」(舘野泉左手の文庫助成作品).
弦楽にOb (2), Fg (2), Hnが加わった編成. 作曲者によるプログラムノートによれば, ケフェウス(Cepheus)は秋の世皿に浮かぶ五角形の星座.
その形から導かれるペンタトニックの5音, 左手の5本の指, ケフェウスの5角形構造, と「5」に拘って作曲されたという.
曲は1. Adagio Tranquillo, 2. Andante Amabile, 3. Allegretto / Waltz, 4. Moderato Spiritoso, 5. Andante Dolcementeの5部から成るが, 途切れなく演奏された.
始まりは弦の宇宙にピアノが煌めく光景.
きっとこの季節の夜空だ.
中間部のワルツはなんとも小粋で楽しげ.
妻であるカシオペアと踊る光景だろうか.
派手さに訴えることは決してせず, とてもお洒落.
ラストのAndanteは再び星の会話が描写される.
透きとおる静けさがなんとも印象的.
最後はピアノと弦が天空に消えていき, 終止を迎えた.
アンコールはわらべうたのように朴訥と紡がれたシュールホフのアリア(ピアノ・ソロ)と, ふっと香る音が美しかった「ふるさと」(弦)の2曲.
最後まで心地よく優しい気持ちにさせられた, 2時間半弱のプログラムだった.