11/27/2013

世界が食べられなくなる日


世界が食べられなくなる日
監督 / Jean-Paul Jaud(ジャン=ポール・ジョー)(2012年・フランス)

「ヨーロッパ某所の研究所」, のスーパーとともに, 映画は怪しげな実験施設の映像から始まる.

前半はGM作物(遺伝子組み換え食品)と農薬を与えたラットがどうなるか調査した長期実験について (農薬をどんなにかけても枯れないGM作物は大量の農薬とセットで食卓へ運ばれて来る).
それまで, 3か月ほどの短期的な実験結果しか公表されていなかったものを, 通常のラットの平均寿命に当たる2年間という年月をかけて追ったこの実験では, 3か月間ではその影響がほとんど見られないが, 2年間では通常の34倍の腫瘍発生率・死亡率がみられるようになった, という結果が報告される.
腫瘍で膨れ上がったラットは見るからに痛々しい.

映画の後半では, 福島第一原発事故以降の日本の農業について紹介される.
遺伝子組み換え技術と同じく, 眼には見えない(そしてその裏に世界の富の半分を占める巨大企業の影がある)原子力エネルギーの技術により汚染された農作物の数々.
世界第3位の原子炉保有国, 日本.
映画ではチェルノブイリの状況も紹介されるが今回の原発事故も同様, その影響が出てくるのはまだまだこれからなのだろう.

これらの悲惨な状況の裏側で紹介されるのが, セネガルのカイダラ・アグロエコロジー農業学校での取り組みだ.
自分たちで種を大事に育て次代に繋いでいくこと, そうしてGM作物の侵入を阻止することの大切さがこの学校では繰り返し教えられる.

さらに, 映画ではセネガルと日本, 二つの国の太鼓の演奏がところどころに散りばめられる.
大地にどっしりと足を着いて打ち鳴らされる太鼓.
それはそのまま生き物の大切さ, 生命の尊さを体現しているようで, 力強く, 逞しい光景だった.

映画のラストで紹介される須賀川の農家・樽川美津代さん(原発事故による影響で夫を亡くされた)の, 「これは日本だけの問題ではない, 海も空もつながっているんだから」という言葉が印象的だった.

GM作物の大量輸入国である日本.
原発のことはもちろん, 遺伝子組み換え食品のことも, もっと考えて声を発していかなければならない.

11/23/2013

仙フィル 第278回定期演奏会


仙台フィルハーモニー管弦楽団 第278回定期演奏会
2013.11.23 / 日立システムズホール仙台(仙台市青年文化センター)コンサートホール

今回の定期はシャブリエの狂詩曲「スペイン」から.
のびのび, 楽しそうに振る指揮者(パスカル・ヴェロ)が印象的.

続いて, コンマスの西本幸弘をsoloにサラサーテの「カルメン」幻想曲.
曲が難しすぎるのか, それともソリストが硬かったのか…, 序盤は少し不安定な響きが続く (ハバネラの主題以降はだんだんと落ち着き, たっぷりとテクニックを見せた).
カーテンコールに応えて演奏されたソリストのアンコール, パラディスの「シシリエンヌ」(arpduo).
やわらかく揺蕩う感じがとてもよかった.

前半最後の曲は, スネの歌劇「ル・シッド」よりバレエ組.
ひとつひとつは短い, 特色あるリズムでスペインの熱い光景を想像させる7.
. アンダルーサのvlc群のcool, . アラゴネーサの疾走感, . マドリレーナにおける哀愁あふれるアングレとリズミカルなカスタネットとの対比がよかった.
終曲(Ⅶ. ナバレーサ)ではカスタネット4によってリズムが打ち鳴らされ, 全員で突進し華やかに終わった.

休憩後はラヴェル「道化師の朝の歌」から.
落ち着いたテンポでコントラストを際立たせ, 表情の違いを出した.

続いてドビュッシー, 管弦楽のための「映像」より "イベリア".
. 街から道から, では なんともオシャレに様々な情景が交差.
続くⅡ. 夜の香り は今日の白眉.
神秘的な中に綴られていく色彩感, 質感は耳以外の感覚器をも刺激して風や香りまでも連れてくる.
この響きこそが指揮者の表現なのだろう (3月のダフクロも素晴らしかった).
2曲目から3目(「祭りの朝」)へのもって行き方(アタッカ)も見事.
わくわくさせる大人の魅力たっぷりだっ.
曲は最, 印象的に鐘が3つ鳴って終わりを迎えた.

本日最後はラヴェルの「ボレロ」.
スネアドラムがフロア中央に移動し, ソリスト西本も乗って始まった曲の前半は, ソロのミスや管楽器の祖語が目立ち落ち着かない (あらためて怖い曲だと思う).
その, hnpicc, チェレスタによる倍音列上の並行旋律が可愛らしくまとめられ, そしtbsoloがとてもよく, 中盤以降は徐々に安定していった.

終演は1715.
全体を通してカスタネットが大活躍し, スペイン尽くしのプログラムだった.

(写真は昼にお邪魔した, 仙台市「創菜欧風料理 ル・ポタジェ」の豚肩肉の煮込み (カレー風味). かぼちゃとインゲン豆のポタージュはじめ, 野菜がどれもとても美味しかったです)

11/17/2013

Serph vent


Serph  vent
2010.07.09 / cxca-1271

Serphというアーティストによる2枚目のアルバムなのだという.

2曲目「pen on stapler」の危うい仄かな灯りや, 7曲目「silencio」の素朴さ, 9曲目「snow」の切なさがお気に入り.

エレクトロニカと称されるにはあまりに脱力しすぎている.
ポップスと呼ぶにはあまりに切なくボーダーレス.
日常にありそうでない, だから心地よい音たち.

そのまま中身(音楽)に通じるジャケットに描かれた絵も心地よい一枚

vent

11/13/2013

五線譜に描いた夢



五線譜に描いた夢:日本近代音楽の150
2013.10.11-12.23 / 東京オペラシティ アートギャラリー

展示は, ペリー来航と軍楽の響き, ヘボンらキリスト教宣教師らによる讃美歌の紹介, 伊澤修二と音楽取調掛による「唱歌」など, 幕末から明治初期にかけての音楽界の「一大事」から始まった (第Ⅰ章「幕末から明治へ」)

続く第Ⅱ章「大正モダニズムと音楽」では, 山田耕作の登場, 唱歌への批判と童謡運動のはじまり, 竹久夢二とセノオ楽譜, オペラと第9の上演などの出来事が扱われる
山田耕作による演奏会のポスターがcoolで印象的
宮城道雄とR.シュメー(vn)による「春の海」の演奏など, 古い音源を聴くことができるブースも設置されていて興味深い

第Ⅲ章「昭和の戦争と音楽」では新興作曲家聯盟と器楽曲の作曲, 近衛と新交響楽団(現N響)の誕生, ラジオ・レコードの普及などが扱われる
この展示室でも音源をいくつか聴くことができたが, 貴志康一による「日本組曲」(1933-1934)より「道頓堀」など, 珍しいものも多く聴くことができた.

最後の展示室では, 戦後日本の音楽界の状況が扱われる (第Ⅳ章「『戦後』から21世紀へ」)
実験工房, 二十世紀音楽研究所, ブリテン・ヒンデミット・ストラビンスキー・メシアン・ケージの来日, 日本音楽集団の結成と現代邦楽, 万博(Expo'70)の音楽, サントリー・ホールの誕生, 日本のオペラの隆盛, 全国でのオケ誕生…, など, この時期の音楽を取り巻く状況は本当にドラマチックだ
武満徹の音楽, 言葉, デザインも多く展示されているが, やはりいつ見ても美しい
また, 矢代秋雄「交響曲」や, 湯浅譲二・柴田南雄らのグラフ紙を用いた譜面など, たくさんの直筆譜が展示されており, 何時間でも観ていられる展示だった.

11/10/2013

河村尚子ピアノリサイタル



河村尚子ピアノリサイタル
2013.11.10 / 白鷹町文化交流センターAYu:M

AYu:M, 画家・梅津五郎の没後10周年を記念した企画の一環として開催されたリサイタル.
演奏会と展覧会のコラボレーションの試みで, 今回弾いてもらう「展覧会の絵」は, 昨日から開催中の特別展(「森田茂・梅津五郎 師弟展」2013.11.09-12.08)に合わせて特別にお願いして実現したものだと, はじめの館長からのあいさつであった.

セットリストはドビュッシー「子どのも領分」, 軽快な「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」から.
河村にかかると, パルナッスム博士もなんとも楽しそうに聴こえてくる.
4曲目「雪は踊る」では, 上に舞い上がる雪のダンスが印象的.
続く5曲目の少し憂いを帯びた「小さな羊飼い」, おどけた6曲目「ゴリウォッグのケークウォーク」と, 曲によって全く異なる音色が紡ぎ出された
続いて, 同じくドビュッシー「前奏曲集 第1集」より「雪の上の足あと」, 「亜麻色の髪の乙女」の2.
ペダルのヴェールを纏って柔らかく響くピアノの音.
「雪の上の足あと」は, 孤独, センチメンタルな世界.
でも, そこから滲み出てくる前向きな想いが伝わってくる演奏だった.

続いて演奏されたラヴェルの「水の戯れ」は今日の白眉.
水の精が微笑んで, とどまって, 流れていく.
水の中の柔らかく くぐもった音, そしてビロードのように滑らかに包み込む音….
あんな音がピアノから出てくるのか, と思ってしまう.

前半ラストはラヴェル「ソナチネ」.
音をひとつずつ置くように始まった第2楽章が印象的だった.

休憩を挟んで後半はムソルグスキー「展覧会の絵」.
MCでこの曲はこれまで弾いたことがなかったが, 今回挑戦してみて改めて曲の魅力を感じたという河村.
はじまりのプロムナードは快活に演奏された.
その後は古城の憂い, 市場の喧騒…, , さまざまな表情を見せる.
それぞれのプロムナードの扱いと弾き分けも見事.
まさにプロムナードとして, 次の曲へとすっとガイドしてくれる.
何色も重ねられたような厚い響きでつくられた「カタコンブ」と, 姿勢正しく凛として始められた「キエフの大門」が特に印象的だった.

アンコールは, 「続けてロシアの音楽を」ということで「熊蜂の飛行」を.
そしてもう一曲, ショパンのワルツ・嬰ハ短調.

河村はイメージのピアニストだ.
情景が, 風景が滲んでくる.
ピアノ(p)の表現が殊更素晴らしい.
その音色, 質感の多彩さ.
さらりと, しっとりと, キラキラと, 滲んで, あるいは可愛らしく, 鈍く…, さまざまに柔らかい.

続くカーテンコールに応え,「フランスに留学していた梅津五郎さんに因んで, また師弟展に因んで」ということでフォーレの即興曲が最後に演奏された (フォーレはラヴェルの師).
2分ちょっとの小品であったが, なんともロマンチックで余韻が残る演奏だった.
満席のホールを包み込んだピアノの音色の数々.

また是非聴きたいと思わせるピアニストだった

11/04/2013

舘野泉 77歳のピアノ協奏曲


舘野泉&ラ・テンペスタ室内管弦楽団(野津如弘 指揮) 77歳のピアノ協奏曲
2013.11.04 / 山形テルサホール

舘野泉フェスティヴァル:左手の音楽祭2012-20132013年日本公演として, 山形公演では3つあるプログラムのうちのプログラムBが演奏された (半分以上が弦だけのプログラムである「プログラムB」が山形で選ばれたのは, ヤンネ舘野の縁がある土地だったからか…).

前半のプログラムはヴィヴァルディの「四季」全曲.
ソロvnのヤンネ舘野を含む23人による演奏であったが, 軽快に始まった出だしが心地よかった.

休憩を挟んで後半はグリーグの「ホルベアの時代から作品40.
爽やかに流れた「前奏曲」, 包み込む「サラバンド」, なんとも荘厳な「ガヴォットとミュゼット」, 哀愁をもって始まり愛情たっぷりのうたが溢れた「アリア」, そして音が軽やかに飛びまわった「リゴードン」.
どれもとても清潔で心地よい演奏だった.

続いて舘野泉のソロによる吉松隆作曲「NHK大河ドラマ『平清盛』より遊びをせんとや・海鳴り」.
なんて優しい音だろう.
ピアノという楽器はこういうものだと, 舘野はじんわりと伝えて来る.
そこに生まれるのはとても自然な音楽だ.
今日の演奏会パンフレット(:42)に引用されていた文章(六耀社刊『ソリストの思考術舘野泉の生きる力』)で, 「僕は体全体を使ってピアノを弾いている。ピアノは指で弾いているのではなく、呼吸で弾いているとも思う。心で呼吸するように音楽を続けることが出来れば、僕はこれからも生きていける。」と述べていた舘野.
まさにその言葉のとおり, 多彩な音が流れ(それはきっと呼吸)とともに紡ぎ出されていった.
88鍵を自在に飛び回る左手.
厚いハーモニーが柔らかく鳴る響きは, 両手によるピアノでは感じられないもの.
呼吸とペダルによって作り出される新しい響きだ.

セットリスト最後は, 同じく吉松隆による「左手のためのピアノ協奏曲「ケフェウス・ノート」Op.102(舘野泉左手の文庫助成作品).
弦楽にOb (2), Fg (2), Hnが加わった編成.
作曲者によるプログラムノートによれば, ケフェウス(Cepheus)は秋の世皿に浮かぶ五角形の星座.
その形から導かれるペンタトニックの5, 左手の5本の指, ケフェウスの5角形構造, と「5」に拘って作曲されたという.
曲は1. Adagio Tranquillo, 2. Andante Amabile, 3. Allegretto / Waltz, 4. Moderato Spiritoso, 5. Andante Dolcemente5部から成るが, 途切れなく演奏された.
始まりは弦の宇宙にピアノが煌めく光景.
きっとこの季節の夜空だ.
中間部のワルツはなんとも小粋で楽しげ.
妻であるカシオペアと踊る光景だろうか.
派手さに訴えることは決してせず, とてもお洒落.
ラストのAndanteは再び星の会話が描写される.
透きとおる静けさがなんとも印象的.
最後はピアノと弦が天空に消えていき, 終止を迎えた.

アンコールはわらべうたのように朴訥と紡がれたシュールホフのアリア(ピアノ・ソロ)と, ふっと香る音が美しかった「ふるさと」(弦)の2.
最後まで心地よく優しい気持ちにさせられた, 2時間半弱のプログラムだった.