本上まなみ (2012). 芽つきのどんぐり:んもあるしりとりエッセイ. 小学館.
key words:日々の暮らし, 庄内
「どんぐりというものは、大きさ・形状といい色つやといい、私にはたいへん好ましいもののひとつで…」(:9)
どんぐりが大好きで本のタイトルにもしてしまう著者はこう始める(ちなみにタイトルは宮沢賢治「どんぐりと山猫」に出て来る「めつき」(金のメッキ)のどんぐりを「芽つき」(芽が出た可愛いどんぐり)だと思い込んでいた著者の勘違いから). 冒頭から思わずにんまりしてしまう文章だ.
著者にとって6冊目のエッセイ集となる本書には, 彼女の様々なお気に入りについての文章が収められている.
自称〈癒し〉系ならぬ〈いやしい〉系の著者だけに, 読んでいるだけでお腹が空いてくる食べものの話も満載だ. 「らっきょう」「うみうし」…とお題がしりとりになっているのだが, 「んもあるしりとりエッセイ」とサブタイトルをつけ万が一ネタに困っても大丈夫なようにと保険をかけるあたりが, なんとも微笑ましい.
45本のエッセイが収められているが, その中でもとびきり楽しいのは, 著者のおかんの実家・庄内地方(山形県の日本海側)のはなし.
その家には「スオ」「サド」「カダクリ」と太マジックで書かれた調味料が置いてあって, 夏休みには著者の夫が「ここは民宿?公民館?」と目を丸くするほどたくさんの人が集う
(:23). 読み手にもなぜか懐かしさを感じさせるその大きくて古い家を巡る面白いエピソードが, 本書には数多く登場する.
そんな家とそこで生まれたおかんの大らかさが, 独自の視点で生活を楽しむ著者の今をつくっているのだろう.
彼女にかかれば, 日々の暮らしは全て特別なものになる. サボテンのことを喜怒哀楽をあまり表に出さないから面白いといい, 庭の草むしりを青くてむんむんした匂いに包まれるから好きだというのだ.
綴られている文章も読んでいて小気味よい.
内容としての言葉とそれを伝える言葉の流れ(リズム)というものがあるとすれば, 著者が書く文章はその相称がとてもよい. 彼女が見つけ出す日々のなかにある楽しさは, その柔らかい言葉運びを通じて読む側にじんわりと伝わってくる.
エッセイスト・本上まなみの魅力を存分に味わうことができる一冊だ.
(当初 新聞の書評用に書いた文章だったので, 少し地元推しで書いています)