5/24/2012

細川俊夫の音楽


COMPOSIUM 2012:細川俊夫の音楽
2012.05.24 / 東京オペラシティコンサートホール

客電が落ち2階・パイプオルガンの前にライトが灯ると, 白い衣装を纏った宮田まゆみさんが登場した.

1曲目「光に満ちた息のように:笙のための(2002)」は, 次々と差し込んでくる光のなか, ゆっくりと深呼吸をするような音楽.
ホール天井に四角く灯るライトの下, なんとも幻想的な雰囲気でコンサートは幕を開けた.

オーケストラが登場して, 続く2曲目は「夢を織る:オーケストラのための(2010)」.
弦の長いB音の靄に, 夏の光のようなパーカッションがキラキラと降り注ぐ.
次第に渦巻いていく流れと, 次々に高速で過ぎ去っていくものたち.
厚い弦楽器の響きが美しかった.

休憩を挟んで3曲目は, 再び笙の独奏による「さくら:オットー・トーメック博士の80歳の誕生日に:笙のための(2008)」.
昨日を想い出しながら一人静かに見上げるさくら.
ベースラインにひっそりと現れるさくらのメロディーは, 静かに散っていく花びらのようだ.
5度の響きは実際に吹いているのか倍音なのか, まるで分からない.
ピアノで弾けば濁ってしまうような音程も, 笙は全てを包み込んで優しく薫らせた.

コンサート最後に演奏されたのは「星のない夜:四季へのレクイエム:ソプラノ, メゾソプラノ, 2人の語り手, 混声合唱とオーケストラのための(2010)」.
アンサンブルや独奏, 独唱, 語りなどを含んだ9の楽章からなる, 50分を越える大作である.
1楽章(ゲオルク・トラークルの詩による混声合唱とオーケストラのための「冬に」)は寒い冬の風を表す合唱団の息の音から始まった.
冷たい風に鈴が揺れる.
囁く合唱.
そこに干渉するコントラバスのクラスター.
まるで映画を観ているかのような世界観に, 最初からドキっとする.
ゆっくりと旋回するアルトフルートの独奏(2楽章:アルト・フルート独奏のための「間奏曲1」)を挟んで, 3楽章(二人の語り手, 混声合唱, そしてオーケストラのための「ドレスデンの墓標」)では男声による語り(ドレスデン空襲の目撃者による証言)が加わる.
日本語による語りだったのだが, 言葉よりも音楽の方がリアルだという不思議.
淡々と語られる体験と, 感情的なオーケストラ (オケはしばしば語りを掻き消すほどの大音量になる).
途中からは女声による語りも加わった.
重なる二人の語りから, ところどころ聴こえてくる恐ろしい情景.
しかしそれらも全て金管の強烈なファンファーレに掻き消されてしまう.
圧倒的な世界が提示されたあとに続く4楽章(ゲオルク・トラークルの詩による二人のソプラノ独唱[一人はメゾ・ソプラノ]とオーケストラのための「春に」)では, ソプラノとメゾソプラノによる独白のような哀しいうたが奏でられる.
語りとコーラス, 吐息(あるいは話すことと歌うこととの間の声)を織り交ぜて立ち上がった5楽章(ゲオルク・トラークルの詩による混声合唱とオーケストラのための「夏」)を経て, 6楽章(三人の打楽器奏者のための「間奏曲2」)では打楽器によるアンサンブルが奏でられた.
それはそれは静かに始まったアンサンブルは, 徐々に近づいて来て, みる間に鋭く破戒的な音楽になった.
7楽章(メゾ・ソプラノ独唱あるいは子どもの声のための「広島の墓標」)はコントラバス・ソロによるピチカートから.
ここでは原子爆弾を経験した広島の小学生の詩が, ドイツ語によって歌われた.
声に滲むオーケストラが切ない.
音楽は終盤を迎え, 8楽章(ゲルショム・ショーレムの詩「天使の挨拶」にもとづくソプラノ独唱, 二本のトランペット, 打楽器のための「天使の歌」)ではヒステリックなソプラノが, 3階席のエコーのトランペット・トロンボーンとともに天使の挨拶をうたう.
そして最後の9楽章(ゲオルク・トラークルの詩による混声合唱とオーケストラのための「浄められた秋」)では, 1楽章を想わせるとても綺麗で静かな響きで終わりを迎えるのだった.

なんといっても「星のない夜」が力強かったが, 「夢を織る」の静かに漂うような響きも印象的だった.
そんなに大きな編成ではないのに, それでも聴こえて来るあの響きの多層さ・多彩さはなんだろうか.
日本の庭をゆっくりと歩いているような心地よさがそこにはあった.
また, 笙の独奏がオケとオケの間に挟まれ, まるで耳をリセットされるかのような構成も心地よかった.

さて, コンポージアムは日曜日の作曲賞本選演奏会へと続く.