南木佳士 (1989). ダイヤモンドダスト. 文芸春秋.
key words:F4D型のファントム, 水車
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雪どけの水がいく筋もの細い濁流をつくって流れる日々が過ぎても、路は黒っぽくて湿って乾かない。頭上に五月の夕暮れどきの陽光を隠す広葉樹の群れを仰いで見るまでもなく、スニーカーの底を柔らかく受けとめる腐植土の感触は、そう遠くない昔、このあたりが深い森であったことを教えていた。(:138)
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冒頭の描写の美しさに, 最初の数行を何度も読み返した.
南木佳士「ダイヤモンドダスト」(単行本には表題作を含めて4作が収められている)には, 土地バブルを経験し変わりゆく街に, それでも静かに, 誠実に生きる看護師・和夫と, その父・松吉, 幼い息子・正史 (妻・俊子はガンで亡くなっている), そして和夫の幼馴染み・悦子の, 短くもあたたかな生活を描く.
和夫の母は, 彼が小学4年生のときに亡くなった.
その病院で医師が幼い彼に言った言葉がある.
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「人間てのはなあ、いつかは死ぬんだぞ。そのいつかってのはなあ、こんなふうに、風が吹くみたいに、ふいにやって来るもんなんだな。普通のことなんだぞ。珍しいことでも、怖いことでも、なんでもねえんだぞ」(:174)
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この言葉が, その後 静かに, 誠実に生きる彼の背景となる.
物語には, 変わりゆく街のなか, 人の死を, 自分の思いではどうにもならない多くのことを経験してきた和夫の, 地に足の着いた静かな暮らしが綴られている.
ゆっくり穏やかな暮らしだが, 決してその生活に平凡などという言葉は当てはまらない.
(写真はお昼にお邪魔した会津若松市「Cafe Baku Table」(ギャラリー「ひと粒」内に併設されている素敵なカフェです) でいただいた季節のごはんプレート. 豆腐とひじきのハンバーグに, たくさんの種類のお野菜が美味しかったです. デザートにいただいた「めごめごさんの葉玉ねぎプリン」は, う~ん, タマネギの味(笑)!)
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