多和田葉子 (2014). 献灯使. 講談社.
key words:銀色同盟
「献灯使」, 「韋駄天どこまでも」, 「不死の島」, 「彼岸」, 「動物たちのバベル」(「ある大洪水の後」というト書きから始まる動物たち(の役をした人間たち)の戯曲)の5つが収められた一冊.
いずれも震災後に書かれた物語だ.
「献灯使」は, 2度の大地震と原発事故の結果
鎖国することになった近未来の日本が舞台.
放射能の影響か「死ねないからだを授かった」(:48)老人の義郎と, 彼の曾孫である無名の物語だ.
そこでは, 東京二十三区全体が「長く住んでいると複合的な危険にさらされる地域」に指定され, 土地も家もお金に換算できるような種類の価値を失っている
(:51-52).
本州は気候が乱暴で気まぐれな性格になったせいで農業がやりにくくなっていて
(58), 沖縄は本州からの移民を受け入れるようになっている (:59).
英語の使用が禁止され, 公の場で外国語の歌を四十秒以上歌うことは禁止されている(:60)….
冗談のような, ふざけているような, それでもなんだか現実味のある状況が紹介されるのだった
(ナンセンスを小説の中へ巧に組み入れていく術は, かつての「犬婿入り」に通ずるところがある).
そんな中, 優秀な子どもを選び出して海外に送り出す「献灯使の会」(:151)に入っている小学校教員・夜那谷は, 無名に白羽の矢を立てるのだった….
「献灯使」の二年前に発表されている「不死の島」では, その背景となるようなストーリーが展開される.
福島で事故があったあと, すぐにまた大きな地震が来て日本は取り返しのつかない被害に襲われる
(:192).
大混乱になった日本では, 二〇一五年に政府は民営化され, Zグループと名乗る一段が株を買い占めて政府を会社として運営し始めた
(:194).
二〇一一年, 福島で被爆した当時老人だった者たちは, 死ぬ能力を放射性物質によって奪われ死ねなくなる(:196)のだった….
この二つの物語は, 2014年と, 2012年に発表された作品である.
それは小説家の予言だったのか….
短い「不死の島」には, 今となっては既視感のある情景が次々と登場する.
そしてどちらの小説も, 「え, ここで終わり?」という取り残された感を読者に与えたまま, 一方的に打ち切られる.
「不死の島」というタイトルが意味するところも, 無名が献灯使として果たして海外へ送られたかどうかも, 不明なまま.
それは, その状況が今も続いていて, 「続きは現実で」と言おうとしているかのように….
(写真は山形市・嶋のパン屋さんTENN. でパンとキッシュ(キャベツと生姜のキッシュ!)と共に購入した, 店舗を持たないケーキ屋さん「moco-choco」さんのラムチョコチーズ. 小麦粉を使っていないケーキはフレッシュな感じで美味しい. この間 酒田で買って来た喫茶Riantさんのブレンド1(ブラジルベース)といただきました)