山折哲雄 (2013). 危機と日本人. 日本経済新聞社.
key words:グレーゾーン, 日本
第一部「危機と日本人」は2012年3月4日から10月28日付の日経・日曜朝刊に連載されたもの, 第二部「グレーゾーンの中を生き抜く」は産経新聞やその他の新聞に掲載されたエッセイを集めたものである.
第一部では, 土下座に見え隠れする巧妙な政治を書いた「土下座の心構え」(:24-27), 福島原発をめぐる報道における「犠牲」と「ヒーロー」というふたつの言葉の使われ方について論じた「犠牲から目を背けるな」(72-75), 岩手県大船渡市で医師として働く傍らケセン語による聖書訳を刊行している山浦玄嗣さんについて書かれた「言葉があまりにも軽くなっていないか」(:96-99)などが印象的だった.
第二部では, 西欧社会が無常という原則にたいし拒否的な態度をとりつづけてきたことを指摘する(そのうえで日本は「この先、不安と危機感をあおり立てる短期的な経済予測に、いぜんとして翻弄されつづけるのか。それとも景気循環=無常の原則に立って長期的な展望をもち、この事態(世界的な金融経済不安)に冷静に対処するよう努力していくのか」(:163)と問う)「経済は好調のときもあれば、暗転するときもある」(:158-163), 日本の平安時代と江戸時代においてみられた長い平和の理由を政治と宗教の間にじつに良好なバランスがとれていたからではないかとする「国家と宗教の相性が良かった日本」(154-157), 大震災と津波によるがれきの受け入れ先が見つからないなか選ばれた今年の漢字が「絆」であったことに事態の深刻さを憂う「人間の「絆」の礎となるもの」(:206-209), 「最悪の事態に備えるという合言葉のもとに、われわれの生存の現実がそもそもグレーゾーンの中にあるという常識が打ち消されていく」ことを論じた「生存の現実はグレーゾーンの中にある」(:216-219)などが印象的だった.
80歳を越える著者であるが, 相変わらずの鋭い視線にハッとさせられる数々が収められている.
(写真は遊佐町の家カフェBioの「本日のBioランチ」. 肉・魚・卵・乳製品・白砂糖・化学調味料を一切使わないご飯. 席からちょうど鳥海山が見える素敵な眺めとともに美味しくいただきました. そして, 近くのパン屋さん「BAKU麦」さん閉店のお知らせが…)