よしもとばなな (2012). 人生の旅をゆく2. NHK出版.
key words:くらし, 変わるものと変わらないもの, 変えてはいけないもの
よしもとばななが変わったのか, それとも読むこちら側が変わったのか…, どちらか分からないけれども, そんなことを思う.
彼女の作品は, 鮮やかな描写が印象的だった初期の作品(のみ)を好んでいたのだけれど, この間 読んだ「鳥たち」以来, 彼女のここ数年の文章が気になって読んでいる.
これがなんだか心にすっと入ってくるのだ.
「人がよりこだわりをなくし、より幸せに、気楽に、それでもよりその人らしさを、命を燃やして生きるにはどうしたらいいんだろう?」
「人がこの世を去るときに、悔いがないと言えるためにはどうしたらいいのだろう?」
そんなことが
しつこく詰まったエッセイなのだ, と筆者はあとがきでいう (:312).
本書は, 「十七年も生きた愛犬が亡くなり, その後すぐに震災があり, 翌年父が亡くなり……」そんな二年間に書かれたさまざまなエッセイが集められたものだ
(:310).
よしもとはいう.
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一歩外に出たら、いや、実はうちにいても、人生はいつどこでなにがあるのかわからない。このあいだ会えた人ともう会うことがないことなんて、あたりまえのことなのかもしれない。かといってぎゅっと握っていたら、なにもできない。そのさじかげん。風に乗る、波に乗る。判断する。そんな本能をいつでも研ぎ澄ませておく。ぎらぎらと、たまにはのんきに。(:30)
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なにも恰好つけているわけではなく, 心の底からそういうのだ.
そして, 例えば ほんとうに具合が悪いときでさえ,「もし具合が悪くなかったら、私はきっともっとこういうことをするだろうに!」と思っていた自分を振り返り, 「でも、それがおかしなからくりだということに気付いた」と素直にいう
(:35).
また, 震災を経た心境の変化をよしもとは, 「あれから、愛する人たちに心で手で目で触れることが、少しこわくなった。」(:199)といい, 「昨日までの人生はよくも悪くももう二度と戻ってこない。深く強くそう感じた」(:215)という.
そんな, なんというか「白い」文章が本書にはたくさん収められている.
それが心にすっと入ってくる理由だろうか.
読み終えて, 密かに, でも確かに勇気をもらう一冊だ.
(写真はこの間お邪魔した鶴岡市「知憩軒」. 落ち着く, あたたかい料理)