2015.11.26. 7 pm start / りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館コンサートホール
長身にすらっと細く長い脚….
一見ピアニストには見えない容貌だが, 胸に手を当て深々とお辞儀をしたあとに始まった最初のパルティータ第3番(イ短調BWV827)から面食らう.
なんというか, 飾らず すぐそこにある音楽, なのだ.
バッハの音楽が違和感なくそこにある.
脱力して, ぺダルも使わず, ものすごく自然.
耳元でぽろぽろ弾いているような音楽だ.
かといって, 決して平たんな響きではない.
生き生きとしたリズムはまるで遊んでいるかのよう.
まさにバロック.
きっとこの時代の音楽はこういうことだったのではないかと思わせるような演奏だった.
2曲目はトリスターノ作曲の「Kyeotp」.
水に反射するやわらかな光のような音楽.
とても美しい.
曲はやがて激しいダンスへと変わり, 内部奏法も使ったインプロのcoolな響きが続く.
そして, 最後の音を残したまま, 次のプログラムであるパルティータの第1番が始められた.
なんとも美しい始め方.
続く一曲目のプレリュードが秀逸.
やさしくやわらかな響きに満ちた, 幸せな音楽に引き寄せられた.
ラストのジーグに続いて, 間を入れずJ. ケージの「ある風景の中で」が始まる.
パンフレットではケージの前に休憩が予定されていたのだが, トリスターノの意向で変更になったという.
その意図がよく分かるような, 効果的で印象的な静かな始まり方だった.
ステージの照明もゆっくりと落ちていって, それはまるで夜の帳が下りるかのよう.
こんなにも気持ちのよいピアノは久しぶりだった.
20分間の休憩を挟んで, 後半はパルティータの第6番から.
前半のふたつのパルティータとはうって変って, 一曲ずつ間をたっぷりととって演奏される.
駆け抜けるパッセージ(決して力むわけではない)と染み入ってくる短調の響きがバッハの音楽を存分に引き立たせる演奏だった.
本日ラストはストラヴィンスキーの「ペトルーシュカの3章」.
先程の透明なバッハを弾いた人物とは別人のような, 激しくアグレッシブな演奏が続く.
1曲目「ロシアの踊り」はピアノ一台だというのに, なんとも色とりどりで華やかな演奏.
2曲目「ペトルーシュカの部屋」はモノローグ的な, 内側へと向かっていく部分の音色がことさら美しかった.
そして最後の3曲目「謝肉祭」は技巧的で大変な難曲.
超人技の数々を疾走感たっぷりに, ドラマチックに弾き切った.
曲の面白さを存分に伝える解釈と演奏だったと思う.
アンコールはオリジナルの「ラ・フランシスカーナ」.
繰り返されるリズムと憂いを帯びた響きが中毒性のある不思議な音楽.
長大なcresc.に吸い込まれるようだった.
終演は21時.
平日の開催に大雨が重なって空席が目立ったことだけが残念だった.
フランチェスコ・トリスターノを最初に聴いたのは, ベリオを演奏したCDだった.
最初は, ベリオの全ピアノ作品を演奏したということに興味があって聴いたのがきっかけだったが, それ以来大好きなピアニストの一人になっている.
アリス=沙良・オットとのピアノ・デュオでも活躍しており, CD「SCANDALE」ではcoolな自作曲「A soft shell groove」と, 「春の祭典」や「ラ・ヴァルス」のトロピカルな演奏が印象的だった.
今後の活躍も楽しみなアーティストである.