平野啓一郎 (2009). ドーン. 講談社.
keywords:メルクビーンプ星人, 散影, 可塑整形, 添加現実, ケチャップ, ニンジャ, 東アフリカ戦争
2033年, 火星に降り立った日本人宇宙飛行士
佐野明日人.
物語は火星への飛行中だった過去(宇宙船のなか)と帰還後の地球(現在)を交差させながら進んでいく.
近未来, そして火星探索と大統領選.
これらが本書のトピックだが, 一見 関係の無さそうな出来事が次々と絡まりあっていく.
それは, 明日人が「結局、一つ一つの問題が、いつでもこんなふうに別の問題と絡み合って、癒着してしまっている…(後略)」(:260)と感じる, まさにそのように.
その様子がとても面白くてスリリング.
明日人が地球を離れていた2年半の出来事, その間の地球での出来事, 可塑整形の技術で次々と変えられる顔かたちと名前, そしてそれらに関わって無数にあるディヴ(分人)の数々(ノノ・ワシントンの言葉が印象的だった. 「人間のディヴはどんどん細分化されていくし、一つ一つのディヴの寿命も短い。あっちこっちに行ってしまった先のディヴがどうなってるのかもさっぱり分からない。」(:137)と. ちなみに本書では分人主義の例が源氏物語の主人公・光源氏を例に説明される(:72)のも面白かった)….
物語は複雑に絡まり合いながら加速していく.
後半のその書き方は見事で, 読むものにどんどんページを捲らせる.
ストーリーは終盤, 大統領戦で討論する二人の候補者の演説を描く.
この場面がまるでその様子を観ているかのように臨場感があった
(それと同時に, 政治を考えるとはこうして とことん話し合うことだよな,
と今の日本の現状を省みて思ってしまった…).
物語は最後, 明日人と今日子, 夫婦の話になって閉じられる.
なんとも清々しいラストだった.
最初はどこか女々しかった明日人が, さまざまな出来事を経て次第に頼もしくなっていく姿も読んでいて清々しい.
ただ, そう思える(た)のは終盤になってからで, 途中は読むのに体力が要る小説だった.
それは複雑に入りくんだ登場人物やストーリーによるものだが, その構成力や文章は流石.
なるほど, 平野啓一郎が未来の話を書くと, ただのSFとは違ってこうなるんだなぁ, と, 何故か勝手に嬉しくなってしまった(笑)一冊だった.
(山形市・喫茶「チャノマ」のガトーショコラ. とろける~)
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