8/30/2015

平野啓一郎 ドーン


平野啓一郎 (2009). ドーン. 講談社.

keywords:メルクビーンプ星人, 散影, 可塑整形, 添加現実, ケチャップ, ニンジャ, 東アフリカ戦争

2033, 火星に降り立った日本人宇宙飛行士 佐野明日人.
物語は火星への飛行中だった過去(宇宙船のなか)と帰還後の地球(現在)を交差させながら進んでいく.

近未来, そして火星探索と大統領選.
これらが本書のトピックだが, 一見 関係の無さそうな出来事が次々と絡まりあっていく.
それは, 明日人が「結局、一つ一つの問題が、いつでもこんなふうに別の問題と絡み合って、癒着してしまっている…(後略)」(:260)と感じる, まさにそのように.
その様子がとても面白くてスリリング.

明日人が地球を離れていた2年半の出来事, その間の地球での出来事, 可塑整形の技術で次々と変えられる顔かたちと名前, そしてそれらに関わって無数にあるディヴ(分人)の数々(ノノ・ワシントンの言葉が印象的だった. 「人間のディヴはどんどん細分化されていくし、一つ一つのディヴの寿命も短い。あっちこっちに行ってしまった先のディヴがどうなってるのかもさっぱり分からない。」(:137)と. ちなみに本書では分人主義の例が源氏物語の主人公・光源氏を例に説明される(:72)のも面白かった)….
物語は複雑に絡まり合いながら加速していく.
後半のその書き方は見事で, 読むものにどんどんページを捲らせる.

ストーリーは終盤, 大統領戦で討論する二人の候補者の演説を描く.
この場面がまるでその様子を観ているかのように臨場感があった (それと同時に, 政治を考えるとはこうして とことん話し合うことだよな, と今の日本の現状を省みて思ってしまった…).

物語は最後, 明日人と今日子, 夫婦の話になって閉じられる. 
なんとも清々しいラストだった.

最初はどこか女々しかった明日人が, さまざまな出来事を経て次第に頼もしくなっていく姿も読んでいて清々しい.
ただ, そう思える(た)のは終盤になってからで, 途中は読むのに体力が要る小説だった.
それは複雑に入りくんだ登場人物やストーリーによるものだが, その構成力や文章は流石.
なるほど, 平野啓一郎が未来の話を書くと, ただのSFとは違ってこうなるんだなぁ, , 何故か勝手に嬉しくなってしまった(笑)一冊だった.

(山形市・喫茶「チャノマ」のガトーショコラ. とろける~)

↓リンクは文庫です。

8/29/2015

ザ・トライブ


映画「ザ・トライブ」
監督 Miroslav Slaboshpitsky / 2014, ウクライナ

フォーラム福島で「ザ・トライブ」を観る.

画面の中に入り込まされる観客の視線, 臨場感たっぷりの長回しの映像 (主人公の後ろをずっとつけて歩いていくシーンなど, その場にいるかのよう), 何のBGMもない中で響くドアの音や足音の不気味さ.
そんなことで, ストーリーがイマイチ分からない(登場人物らが用いるのは手話, 字幕無し)ことは気にならなくなっていく仕組み.
それは新鮮だったが, 映画を常に支配するのは暴力とニヒで, それだけははっきりと分かるぶん, 悲惨なまでの残忍さが生々しくこちら側へ伝えられる.

日本での公開に当たってこの映画に付けられたキャッチコピーのひとつに「純愛」というものがある.
だが, 主人公が彼女を愛するに至った過程はほとんど語られず, 純愛(のキャッチコピーを真に受けてしまったのが悪かったが)は到底感じられない.
彼女への想いのために, 次々と人を殺し犯罪に手を染めていく主人公の心理も到底理解できない.
こうもすぐに彼の人生が変わってしまった, 変えられてしまった絶望感.
救いのなさ.
その想いだけが強く残る.

そこで思うのだ.
これがデビュー作だという監督が伝えたかったことはいったい何だったのだろうか…, .
奇を衒うだけのような気もしてしまうのだったが, 茫然自失させられるこの気持ちが狙いなのであれば, それはそれで素晴らしく作戦成功なのだろう.
カンヌで批評家週間グランプリなどに輝いたという評価は, そこに送られたものなのだろうか.

それにしても, 観終わった後のこの絶望感と憔悴….
しばらくは何も話すことが出来なかった映画だった.

(福島市・「珈琲舎 雅」でいただいてきた「空」ブレンド. 深い香りがこころを落ち着かせます)

8/23/2015

パウル・クレー展


パウル・クレー:だれにも ないしょ。
2015.07.05 - 09.06 / 宇都宮美術館

パウル・クレー(1879 - 1940)の作品展.
初めて訪れた宇都宮美術館, 樹々に囲まれた緑と光が美しい建物.

作品は, エントランスを挟んで左右に分かれたふたつの部屋に展示されていた (エントランスにはクレーの年表や彼の日記の言葉が展示されている. あの時代にあってイクメンとして生きていたクレーの姿がみてとれる).

展示は第1章「何のたとえ?」, 2章「多声楽(ポリフォニー):複数であること」, 3章「デモーニッシュな童話劇」, 4章「透明な迷路、解かれる格子」, 5章「中間世界の子どもたち」, 6章「愚か者の助力」の6つのセクションに分けられていた.

最初の展示はその多くが晩年の作品で可愛らしい作品が並ぶ.
画家の目に世界はどんな風に見えていたのだろうか.
まるで子どもの落書きのような作品たち.

色使いもとても心地よい.
デザインされた画面も, 極端にシンプルなものからものすごく書き込んだものまで, それぞれに味があって楽しめる.

4章で展示されていた「花ひらく気をめぐる抽象」(1925年)は, 自分の中にあるクレーのイメージそのものの方形画.
観ていて落ち着く色の配置は, まるで静かな音楽を聴いているかのようで心地よい.

もうひとつの展示室は第5章と第6章の展示で, クレーの晩年, 子どもの落書きのような画を見せる.
不完全な天使たちを, 画家は何を思って書いたのか.
それは展覧会のサブタイトルが表すように, まさに謎だ.

(宇都宮といえば餃子!)

8/22/2015

地獄でなぜ悪い


映画「地獄でなぜ悪い」
監督 園子温 / 2013

なんともクレイジーなストーリーはまさに園子温ワールド.
極上のギャグ.

全力歯ぎしりレッツゴー.

(七ヶ宿の「芭蕉庵」でお蕎麦(「からしせいろ」(もとは まかないだったという, 豚バラとささがきゴボウを煮込んだ辛い汁), 美味しかった!)をいただいたあと, 飯豊町のカフェ「ぽたじぇ」へお邪魔してきました. 飯豊町産の梅を使ったシロップのソーダが素朴で美味しかったです)



8/16/2015

のけものアニマル


のけものアニマル:きみといきる。
2015.07.18 - 10.04 / はじまりの美術館(猪苗代町)

猪苗代「TARO CAFE」へ寄ったあと, はじめて「はじまりの美術館」へ

佐野美里, 星清美, 塔本シスコ, 高橋真菜, 渡邊義紘, サエボーグの6人による展示.
会場に並んだのは, すでに他界している塔本のものをのぞいて みな若手作家による作品の数々.

テーマとなっている「アニマル」たちの描き方は, 当然それぞれに全く異なる.
佐野の生み出す素朴なアニマルも, 星や塔本や高橋が描く生命力に満ちた色とりどりのアニマルも, 渡邊の不思議な枯葉のアニマルや切り絵で切り取られたcoolなアニマルも, そしてサエボーグによってつくられた家畜として生きるラバー素材のアニマルも, すべてアニマルであり, 人間と様々な関係をもっている.
一方で, そんな人間もまたアニマルである.
しかし, 人間は生態系を壊し, 他のアニマルたちとの関係を壊す.
その意味で「のけものアニマル」はわたしたち人間なのだ, と主催者はいう.

この展覧会は, アニマル同士の関係から 人と人, あるいはわたしとわたし以外とのコミュニケーションについて考えさせるものだ.
エントランス・スペースで流れていた, 奈良県うだアニマルパークの「いのちの教育」についての映像もおもしろかった.

会場となった「はじまりの美術館」は, 130年前の酒蔵を改築して去年オープンしたのだという.
靴を脱いで観て回れる建物は, 木のぬくもりたっぷりのあたたかいもの.
福島の地で, 美術館の名前に込められた想いを感じながらゆっくりと楽しめる展覧会だった.


(この間の11日にNHKでやっていた「ピタゴラ装置 大解説スペシャル」や今日のようなアート, 猪苗代湖の光と風なんかを感じながらゆっくり・のんびり過ごす夏です)

8/15/2015

海街diary


映画「海街diary
監督 是枝裕和

映像がとてもキレイな映画.
まるで光を撮っているかのよう.

しらすトーストが魅惑的だ.

(写真はこの間お邪魔した福島市「江戸政」)

8/14/2015

しあわせのパン


映画「しあわせのパン」
監督 三島有紀子 / 2012

好きな人と, 好きな場所で好きな暮らしをする.
誰かとパンをちぎって分け合う幸せ.

美しく静かな映像が素敵な, ほっとなる映画だった