5/12/2013

愛してる、愛してない


映画「愛してる、愛してない」
監督/脚本 イ・ユンギ(2011年)

映画は, 2人の男女を映した長い車の中の長い会話シーンからはじまる.
普通の会話が, ノーカット・定点カメラの撮影で続くので, 見ている側はまるで2人芝居の舞台を観ているような, すぐそこに役者がいるような感覚にとらわれてしまう.
しばらく世間話が続いたあと, 女は別れ話を切り出すのだった.
それでも, 2人の会話はとても静かだ.

場面が変わって, カメラは家を出る準備を進めている女と男, 2人の家を映す.
降り続く雨をバックに繰り広げられるのは, やはり静かな会話, 明日も続きそうな生活が感じられる会話だ.
出ていくという女を相手に, 男は変わらずに静かだ.

そんな優しい男についに我慢できなくなり, ようやく核心を切り出す女.
「どうして私を怒らないの?」
それに対して男は,
「怒ったとしても何も変わらないだろ? きっと僕に問題があったはずだし」
とこたえるのだった.
どんなに女が理不尽であっても, やはり男は静かなままだ.

カメラはひたすらに2人の会話を映し出していく.
2人以外の登場人物は, 家に迷い込んできた猫1匹と, その猫を探しに来た隣の家の夫婦2人だけだ.
その他, 言葉を発するのは, 女の母親と女の浮気相手 (男はそれすらも冷静に取り次ぐ), 予約したレストランからの確認の電話, そして大雨のニュースを伝えるTVキャスターの声のみ, である.
それらも全て, 降り続く雨をバックに.

最初, 男は元に戻りたい, 元どおりに戻れる, 大丈夫, と落ち着いているのだと思って観ていた.
そこには観ている自分の期待もあったと思う.
しかし, 突然迎えられたエンディング(玉ねぎが目に染みたことを理由に涙する男)に, 違う, 男はもう戻れないと知っていたのだ, と気が付く.
流れるエンドロールを目に, ひとり取り残されたような気分になった.

怒って冷静を失ってしまっては, 自分を取り戻せなくなってしまうのではないか….
最後まで寡黙な男にじれったく少し苛立ちながらも, 最後には男の中にある強さと, そんな思いを感じた一本.
淡々と進みながらもぐっと深いところまで潜っていく…, こ
んな映画ははじめてである.

本作は, ノーギャラで自ら出演を希望した俳優とスタッフによって, 20日間ではつくりあげられた作品だという (映画パンフレットより).
緊張感あふれるやり方で, それでも自然に, 2人の間にある(あった)5年という時間までをも映し出した, 小説のような映画だった.