6/30/2012

TK flowering


TK from 凛として時雨 flowering
2012.06.27.released / AICL-2390~1

ロックという音楽はどうしてこうも逆説的にしか優しくなれないのか.
TKの新譜を聴いてそう思ってしまう.
自分を傷つけることで優しさが滲み出てくる…, そんな切なさがオスティナートとしてずっと漂っているのだ.
時雨ではなんだか隠れてしまっていた, そんなせ繊細な分が現れているようなアルバムだった.

1曲目から爽やかに疾走する世界 (flower).
ギターとドラムの相性がとてもいい.
泣きながら駆け抜ける2曲目「Abnormal trick.
歌詞が印象的な3曲目「haze.
執拗に繰り返されるフレーズがcool4曲目「phase to phrase (まるでジャズだ).
気持ちよく漂う5曲目「white silence.
6曲目「12th laser」は正統派すぎてちょっと異色だと感じてしまう.
壮大で切ない物語である7曲目「film A moment」(7分を越える)のあとは、3曲優しい歌が続く.
うち2曲はインストだ.
テキストをもつラスト曲である9曲目「fourth」でうたわれるのは, 夜の風に隠された秘密のうた.
どことなく懐かしい歌声に(なぜかFishmansを思い出してしまう…)聴き入ってしまう.

haze」でTKはうたう.

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笑って
今君が霧の中で 手に入れられないものに苦しむなら
刺していいよ 今だけ

笑って 光が見えたらいいね
暗闇は僕が切り裂いておくから

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優しくうたわれるそのテキストに, ドキっとする.

DVDがまたいい.
ひとつの映画となったライブ映像である.

flowering(初回生産限定盤)(DVD付)

6/23/2012

toe the future is now


toe the future is now
2012.12.19 / XQIF-1002

音は少し足りないくらいで丁度いいのかもしれない.
toeの音楽を聴いてそう思った.

TOWER RECORDSCMで「うーん。やっぱ無いと困るんですね。音楽は。。俺たちには。」と言っていた彼ら.
その言葉が印象的だった.

朴訥とした音に, ドラムだけは痛々しいほどストイックに, 狂おしく踊る.
まるで修行僧のように.

2曲目「月、欠け」ではaco(!)のvocalが加わる.
これがまるで, はじめから同じバンドだったかのように相性抜群.

ジャケットがまたいい.
不思議なイラストだ.

The Future Is Now EP

6/16/2012

björk BIOPHILIA


björkBIOPHILIA
2011.10.05 / UICP-9043

ビョーク, 4年ぶりとなるアルバム.
どこか土着的なリズムにのった激しいダンスから, 美しすぎて切なく, それゆえに恐怖を覚えるような哀歌まで, 多岐にわたる表現の数々.
1枚のアルバムで, こんなにも多様な世界を表せるのかと驚く.

煌めく伴奏に反して, 叫び, 熱く語られる3曲目「Crystalline.
不思議なエフェクトによる和音とハモりが印象的な5曲目「Dark Matter(後ろにはそのリミックスも収録されている).
ガムランをオルゴールにしたような7曲目の「Virus」も印象的だ.
そして, なんといってもやはり1曲目「Moon」がカッコいい.

ビョークは話すように歌う (それはよくも悪くも, やはり「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のイメージに重なってしまう).
いや, ほんとうに話しているのかもしれない.
もし楽曲から音だけを脱がせることができるのなら, 残るものはビョークの話し声, あるいは語りだけだろう.
それだけ何にも捉われることなく, 干渉もされず, ビョークは語る.
もっといえば, ビョークの語りが音を生き生きとさせているような部分もある.
それは, 従来のポップス(伴奏を従えるボーカル)というものとは全く違う図式のように思える.

さて, この「BIOPHILIA, 「ビョークが進めるマルチメディア・プロジェクトで、アルバム、アプリ、ウェブサイト、カスタム・メイドされた楽器、ライヴ、教育的なワークショップといった様々な要素で構成されているもの」だという (以上, web(プレスリリース)より).
ビョークのwebサイトや, 公開されているいくつかのPVもとてもcoool
子ども向けのワークショップでは, テクノロジーと音楽の融合領域を紹介するプロジェクトもあるという.
ジャンルを跨いだ音楽を発表し続けてきたビョークらしい, ボーダーレスな活動である.

Biophilia

6/09/2012

中村文則 何もかも憂鬱な夜に


中村文則 (2009). 何もかも憂鬱な夜に. 集英社.

key word:目覚めよと呼ぶ声がきこえ

駄目になってしまいたいという破滅の願望を抱える登場人物たちは, 自分に似つかわしくないこの日常生活から離れ, 本来の相応しい(破滅した)自分になりたいと思いながら生きている.
その葛藤を, 中村文則は驚くほどリアルに描き出す.
こんなにも正統派に, 文体だって言葉だって, 小説家とよばれる人たちがこれまで使い続けてきた道具だけで, .

死刑囚である少年・山井が, 刑務官である僕に殺人の真相を告白する場面がある.
被害者の自宅で人をめった刺しにしたあと山井は, 自分が殺めた人物がついさっきまで使っていた食卓の椅子のフリル, 水色の座布団、冷蔵庫のマグネット…, それら日常の記録を見た(見てしまった)ことを感情露に告白する.
その描写は, 山井の行動だけに注目してしまうあまり読み手が忘れていた景色を瞬時に立ち上がらせ, 日常のなかで起きてしまった事件のリアリティを強固なものにする.
それは小説ならではの書き方であるのに, 彼の告白を聴いて読み手は, あぁこれはお話なんかじゃない, すぐそこの日常で起きた出来事なんだ…, とドキっとするのだ.
鮮やかに, まるで読み手自身の感覚であるかのように.
やがて, 自分が控訴しない理由を語りだす山井.
会話だけで, ドラマチックに情景が浮かび上がる場面だ.
この臨場感はやはりこの作家ならではだろう.

小説のラスト, 山井は主人公である僕に手紙を書き, バッハの「目覚めよと呼ぶ声がきこえ」に感銘を受けた, と綴る.
何もかも憂鬱な夜に, 眠られない夜を過ごしている山井に, 主人公が薦めたその音楽は光を当てる.
それは, 色んな人の人生の後ろでいつも流れているような気がする, と山井が語る声だ.

あなかだ兄だったらよかった, と手紙の最後で山井はいう.
なんとも静かで余韻が残る終わり方だった.

何もかも憂鬱な夜に
何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫)

6/03/2012

パパ・タラフマラ ロング グッドバイ


パパ・タラフマラ (2012). ロング グッドバイ:パパ・タラフマラとその時代. 青幻舎.

key words:身体, 表現

一度観てみたかった, と思う劇団やカンパニー, パフォーマンスがいくつかある.
天井桟敷, レニ・バッソ, (かつての)ダムタイプのpHS/N.
そして, 先月その活動に終止符を打ったパパタラも, このリストに入ってしまった.

本書には, パパ・タラフマラの解散に寄せて書かれたエッセイやインタビューが集められている.

解散に寄せた文章で, 佐伯剛(「風の旅人」編集長)はこう語る.
「個性とか自分らしさ等と安易に口にするステレオタイプが表現界や批評界に跋扈するなか、三十年間、ステレオタイプの停滞に陥らなかったパパ・タラフマラ。オリジナリティというのは、とてつもなく考え、神経を行き届かせ、身体を使い、心血を注いだ結果の出来事であると身をもって示し続けた。」(:16)と.

また, 天童荒太は「不安や困惑のなかにこそ、人生も芸術もおもしろさがある。なのに、わからないことに苛立つ人が、これは昔から大勢いて、芸術や芸能は、そうした人々や社会とのせめぎあいを繰り返してきた」(:27)とし, 「いまや、なんでもアリは面倒で、考えねばならないことは億劫、受け身のまま楽しませてくれないものはつまらない」と思われる時代になってしまった(:29)とする.
それゆえ, パパ・タマフラマが発展的解散に至ったのは必然だった, .

考えに考え抜いた表現を生み出し続けたアーティストと, 考えるのが面倒くさくなりつつあるオーディエンスたち.
哀しい関係である.

また, 本書にはパパ・タラフマラの代表・小池博史自身による, カンパニーの誕生から解散までの30年を振り返った文章も収録されている (150-158).
解散ではあるが悲しい感じだけにはならず, さて次はどうする?となるのがとても面白い.
アーティストはもう次を見据えているのだ.

感性の領域と頭の領域をきちんと繋ぐためにも, 語るということを一生懸命やろうと思っている, という小池 (webDICE).
「小池博史ブリッジプロジェクト」の今後が気になる.

ロング グッドバイ―パパ・タラフマラとその時代