原田ハマ (2012). 楽園のカンヴァス. 新潮社.
key words:アンリ・ルソー, 夢 (Le reve), 夢をみた (J'aireve)
「夢」.
アンリ・ルソー晩年の作品で, 画家を代表する油彩画である. ある日, その作品にうりふたつの「夢をみた」という作品の存在が明らかになる.
「夢」の制作当時, 画家の貧困は頂点に達していた.
大型のカンヴァスを買うにも十分な絵の具を買うにも, ほとんど資金は尽きていた(:85)のに, そんななか画家に2つもの大作を描くことができたのか….
物語は, この作品の真贋鑑定をするティム(MOMAのチーフ・キュレーター)と織絵(岡山県・大原美術館の監視員)のふたりと, 鑑定の手掛かりとして与えられた1冊の本を巡って, 倉敷, バーゼル, ニューヨーク…, 場所と時間を交差させながら進んでいく.
彼らの過去が明らかになり, そして「夢をみた」の持ち主とその絵に描かれた女性との関係が次第に明らかになっていく仕方は, 臨場感あふれドキドキする.
物語の終盤, 真絵(さなえ=織絵の娘)がルソーの絵に対して「なんか……生きてる、って感じ」と応える場面がある (:290).
いつもは無愛想な娘がポロっと真理をつぶやき, 織絵が息を飲む場面だ. なんとも印象的だった.
この世界の奇跡をみつめ情熱のすべてで描いた画家, 絵とともに「永遠」を生きた女, その絵を守り抜いた男.
そして後の時代に, その絵を味わい, 真理を掴む人々. 絵は多くの人に育てられる.
そしてそんな絵と, そんな絵を描く画家は(たとえ貧しくともやはり)とても幸せだと, そんなことを思った.
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アートを理解する、ということは、この世界を理解する、ということ。
アートを愛する、とういことは、この世界を愛する、ということ。
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織絵の父親が, 自分に囁いてくれたような気がした (:158), という言葉だ.
画家を通じて世界を理解し, 愛するということがアートに触れるという体験. この本を読んだ後にはなおさら, 納得とともにうなずける言葉である.
楽園のカンヴァス