3/02/2014

村田沙耶香 しろいろの街の、その骨の体温の


村田沙耶香 (2012). しろいろの街の、その骨の体温の. 朝日新聞出版

key word:教室の中の政治

教室の中の微妙な人間関係と政治.
それは女子小学生でも, 女子中学生でも, あるいは男子の間にも, 存在する.
村田沙耶香はその(思春期特有の, と書こうと思ったが, それは決して思春期に限ったものではない)心の襞の繊細な動きを, エロティックに生々しく書き上げていく.
それは誰もが一度は体験したことがある心の動きだろう.
だから読み手は, それが中学生(あるいは小学生)の話であったとしてもドキっとするのだ.

物語はニュータウンに住む主人公・結佳の小学生時代の話から始まる.
小説タイトルにある「しろいろの街」は, その開発中のニュータウンに対する結佳の呼び方だ (同じく, 結佳はこの街を「骨だらけの、巨大な墓場のような静まり返った街」(:142)と表現する).

小学生の結佳は, 特別になりたいと(密かに)思っている.
早く大人になりたい, 特別になりたい結佳は, 習字教室で一緒の, まだ子どもな同級生の男子・伊吹を性的にからかう (その気持ちは, 習字の七夕の短冊に「練習した「家族が元気で、楽しい一年でありますように」という字ではなく、「私だけのおもちゃが絶対にどこにもなくなりませんように」と」(:81)書かせる).

物語は後半, 中学生になった主人公らを描く.
少し大人になった伊吹は, クラスでも人気者の「幸せさん」(結佳がいう, クラスでも上位にいる人)になっていて, 二人の立場は逆転している.
だが, 教室の外では相変わらず伊吹は結佳のおもちゃなのだった.
その事実は, 教室のなかでは「中ぐらいのレベル」にいる結佳を安心させつつ, 同時にバレたらどうしようかと怖がらせる.
だから, 伊吹に「こんなふうにこそこそしないで、ちゃんと付き合おうよ。谷沢」(:144)と言われても, それは決して叶わないことなのだった.

物語はラスト, 教室で「下のレベル」にいる信子(小学校の幼馴染)が, 自分をからかう男子と「自分の誇りのために必死に戦う」(:238)場面を目にすることから急展開する.
その姿を見て「何度も立ち上がる信子ちゃんを、きれいだなあ、と思った」(:同)結佳は, 自分自身もついに立ち上がるのだった….

物語に一貫して流れる瑞々しさと臨場感は, 読み手を一瞬にして しろいろの街の中へと連れて行く.
かつての自分自身と決別した結佳と伊吹とのラストシーンは, その瑞々しさの延長にある.

思いがけず爽やかで, 妙に求心力のあるエンディングだった

しろいろの街の、その骨の体温の