村田沙耶香 (2011). ハコブネ. 集英社.
key words:自習室, 繋がる
バイト仲間からまるで男友達のように扱われる里帆は, 自分の「性」について悩む19歳のフリーターだ.
「自習室」で知り合ったふたりの年上女性, 椿と知佳子と触れ合いながら, 里帆は性についてさまざま考える
(物語は里穂と知佳子, 二人の視点から交互に語られていく).
男性との性行為が辛い里帆は, 胸を隠すタンクトップやウィッグで男の子のふりをしたり, あるいは女性とキスをしたりしながら, 自分の本当の性を試していく.
そして, 自分はずっと「性別を脱ぎたかったんだ。性別を脱いで愛し合いたかったんだ」(:113)と結論付ける.
一方, 知佳子は性について悩む里帆に触れ「なんでそんなことにそんなにもこだわって、苦しむのだろう」(:151)と思う.
性別なんていうものがそもそも本当にあるのかどうか分からない知佳子は, 人間との繋がりには興味を持たず(持てず)に, アース(地球)と繋がろうとするのだった.
また, それとは別の点で椿もまた自分の性に固執し, 雁字搦めになっているのだった.
最後まで, 里帆の実験は続く.
それは傍から見ていて痛々しいほど上手く行くことはない.
一方, 知佳子はアースとセックスをしようとし, 「ヒトであることを脱ぎ捨てて、星の欠片にな」ることを選ぶ…
(:200).
終盤, 疲れ切った里帆が告白する場面がある.
「……自習室で……船で……どこか遠くの……自由な場所に漕ぎ出したつもりだった……私に……ノアの箱舟……だったんです……」, と (:160).
その告白を聴いた知佳子もまた, 自分にとって自習室は箱舟なのかもしれないと思う.
「宇宙に飲み込まれて崩壊してしまった幻想世界が、この中だけでは、続いているのだから」(:160)…と.
さて, 3人が避難したハコブネはどこへたどり着くのか.
もどかしい日々はこれからも続くのだろうが, それでもやはり, 舟は流れに乗って進んで行く.
(写真は仙台「deux」のガレット)
ハコブネ