1/25/2014

石井光太 蛍の森



石井光太 (2013). 蛍の森. 新潮社

key word:赤い漆塗りの髪飾り

物語は最初から圧倒的なスピードではじまる.

「おい、こいつカッタイだぞ。カッタイの人さらいだ!」
「なにぃ、カッタイ野郎が赤ん坊を盗んだのか。こいつら、赤子を売りさばこうとしたにちげえねえ」(:11

読み手は状況が把握できないまま, その渦の中に飲み込まれていく.
そしてそのまま, 小説では壮絶な場面と展開が続く.

作品に見られる文章のテンポ感やリズムは, 「遺体」や「レンタルチャイルド」などのルポルタージュに見られるように, 迫力満載だ.
さらに作者は, 「わずか六十年前は、今からは考えられないことが起こり得た時代だったのだ」(:265)と耕作(主人公)に言わせ, それは遠い国の遠い昔の出来事では無いと知らせることで, さらに読み手を引きつける.

冒頭シーンが蘇り, 1953年(9冊にわたる乙彦のノートでの告白)が2012年と繋がっていくラストは見事.
乙彦との秘密が明らかになる小春の告白(:399-403)は, 読み手がまるでその場所にワープしたかのように臨場感たっぷりだ.

最後の最後, 年老いた小春が涙するシーンがある.

「よかった。これまで頑張って生きていて本当によかった。まさかもう一度乙彦に合えるなんて……」(:410

時間と空間を超えて, 人の想いは伝わる.
それは, その熱が高ければ高いほど, 確かなものとなって届けられる.

本のタイトルは乙彦(耕作の父, 1950年代の主人公)と小春, 虎之助(乙彦と一緒に寺で暮らしていた子ども)が一緒に見た蛍の光景からきている.
まさに過酷な運命としか言いようのない状況において, その緑の光が燃え上がる場面の描写がとても印象的だった (113).

蛍の森

1/19/2014

Gregory Privat Tales Of Cyparis


Gregory Privat Tales Of Cyparis
2013.11.03 / AGIP-3525

どこか土着的なリズムに爽やかなピアノがのる.
なんともおしゃれ.
1曲目「FOUR CHORDS」からcoool (これにGUSTAV KARLSTROMのうたがのった14曲目も最高に心地よい).
2曲目「RITOURNELLE」は鍵盤が在るというピアノの制約を飛び越えたかのように自由自在で, まるで鍵盤と鍵盤の間を弾いているかのような錯覚を覚える.
11曲目「CARBETIAN RHAPSODY」も, そしてメロウな12曲目「FAR FROM SD」もおしゃれで心地よい.

グレゴリー・プリヴァはフランス領マルティニーク島生まれのジャズピアニスト (CD解説より).
本作は彼の2枚目となるアルバムだという.
爽やかな朝も, 夏の海にも, 雨の夜にも似合いそうな一枚だ.

(写真は酒田市中町・三日月軒ラーメン)


1/04/2014

小池隆英 絵画であること


小池隆英:絵画であること
2013.12.07 - 2014.01.26 / 山形美術館

新年開館初日, 小池隆英(1960年・米沢市生まれ)の個展へ.
山美での発表は1995年以来2回目だという.

今回の展示では現在までの代表作70点が掲げられている.

作品はどれもフライヤーから想像していたよりもずっと大きく, 伸び伸びしている (どの作品にもタイトルは無く, 展示番号のみ).
朝イチ, 誰もいない展示室でたくさんの色に囲まれていると, だんだんその色たちに包み込まれていくような錯覚を覚える.
静かな, でも確かな生命の蠢き…, そんなものが感じられた.

第一展示室はピンクや黄のいわゆる暖色系, 第二展示室は青やみどりの寒色系を中心にした作品が展示されている.
いずれも年代が進むにつれて, 絵具が薄く薄く, 軽やかになっていく.
二階展示室には大小さまざまな大きさ, 彩りの作品が並ぶ.
とてもゴージャスで心地よい空間に, 思わずため息が出てしまう

小池は絵具の流動性に注目する.
そしてそのコントロールの難しさが安易な制作を防ぐとし, 「絵具を重層させる構築性とそれを突崩す偶発性のせめぎ合いが私の「絵画であること」かもしれない」という (展示室掲示の本人コメントより).

具体物がひとつも描かれていない画面に, 絵画として何を観るのか.
それは, 旋律の無い音楽を聴く経験に似ている.
聴いている/観ているようでいて, 実は聴き方/見方を逆に尋ねられている…, そんな経験だ 

※明けましておめでとうございます. 本年もどうぞよろしくお願いします!