8/18/2013

柚木麻子 ランチのアッコちゃん


柚木麻子 (2013). ランチのアッコちゃん. 双葉社.

key word:東京ポトフ

短い話が4本収められたオムニバス.
どの話にもとびきりキュートでカッコいい(と私には思えた)アッコちゃん(45歳)やその部下(?)が登場する.

一本目, 「ランチのアッコちゃん」.
派遣社員の澤田美智子は, 派遣先部署唯一の女性正社員黒川敦子部長(アッコちゃん)と一週間ランチを取り替えることになる.
美智子が作るのは無印良品のアルミのランチボックスに入った素朴なお弁当.
一方, 黒川から渡されるのは彼女が曜日ごとに決めているお店の地図とメニュー, そして現金だ.
黒川から日替わりで提示されるランチメニューはどれも本当に旨そうだ.
でも, 美智子が交換によって手に入れたのは, 食べものだけではない.
ランチを食べる時間と, 会社では見ることのできないアッコちゃんのたくさんの顔, そしてそのご飯を取り囲むたくさんの人との繋がりだった.
失恋の痛手ですっかり元気を無くしていた美智子が段々元気になっていくさまはとても爽快.
思わず笑顔になるおはなしだった.

第二話, 「夜食のアッコちゃん」.
前話で勤めていた会社が倒産し, 美智子は別の会社に勤めている.
新しい会社の人間関係で悩んでいたところに, 新しくポトフのワゴン販売を始めていたアッコちゃんと再開する.
商売を手伝わせてもらうようにお願いをした美智子は, 日中の会社勤めに加え夜のワゴン販売を手伝うことになる.
働きづめでハードな日々だったが, ここでも美智子はポトフが繋ぐ出会いを通して自分と深く向き合っていくのだった.

三つ目は「夜の大捜査先生」.
前の二本と違い, 満島野百合(30歳)とその高校時代の担任ゾノせん(前園英作)が主人公のはなし.
高校時代にやんちゃをしていた野百合はひょんなことからゾノせんと再会し, 自分と同じように夜の町を遊び回っている現役女子高生ハマザキを探すことになる.
高校時代が一番輝いていて, 今の自分には何もない, 結局何者にもなれなかったという野百合だったが (120), そんな教え子にゾノせんは, 今の方がよっぽど輝いているという.
朝に向かい明けていく渋谷の町を舞台にした, 疾走感溢れるストーリーだった.

最後のはなしは「ゆとりのビアガーデン」.
とあるベンチャー企業を3か月で辞めてしまうOL玲実が主人公. 
退社後玲実は会社が入っていた同じビルの屋上にビアガーデンをオープンさせる.
なによりも元気な彼女が爽快だが, その熱は当然周囲を巻き込んで変化を起こさせていくのであった.

12話のどことなく引っ込み思案の美智子, 3話の自分に自信が持てない野百合, そして4話のゆとり世代で使えないと揶揄させる玲実の3人に共通するのは,その行動力と好奇心の旺盛さだ.
熱を発するものはまたどんどんと熱を帯びて, その熱が周囲に派生していく.
その光景はそれだけで気持ちよいものだが, 本書ではその熱源に美味しそうな食べものが数多く登場するのだ.

あたたかい食べものは人と人とをつなぐ.
そんなことを改めて考えさせる一冊.

ランチのアッコちゃん