三浦しをん (2011). 舟を編む. 光文社.
keywords:大渡海, 用例採集カード
定年が近づいている玄武書房の辞書編集部編集者・荒木公平と, 彼にその後継者として編集部へ引き抜かれた馬締光也(まじめみつや)・27歳.
馬締は, 「エスカレーターに乗るひとを見ることが趣味」(:25)だという, ちょっと変わった青年だ.
そんな彼を取り巻く編集部の面々と, 彼の下宿先「早雲荘」のタケおばあさん, そして彼が思いを寄せる料理人・林香具矢(タケおばあさんの孫娘)が本書の主な登場人物だ.
どのキャラクターも愛らしく憎めない存在である.
馬締と, 彼と同じく玄武書房の同年・西岡正志とのやり取りも面白い.
お互いにコミュニケーションが取れているのかいないのか…, でもやっぱり息がぴったりの二人のやりとりは読んでいて小気味いい.
物語は, 彼らが一冊の辞書を作り上げていく過程を描く.
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どれだけ言葉を集めても、解釈し定義づけをしても、辞書に本当の意味での完成はない。一冊の辞書にまとめることができたと思った瞬間に、再び言葉は捕獲できない蠢きとなって、すり抜け、形を変えていってしまう。辞書づくりに携わったものたちの労力と情熱を軽やかに笑い飛ばし、もう一度ちゃんとつかまえてごらんと挑発するかのように。(:71)
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辞書作りは困難を極めるが, その過程は困難だけれども愛と
やり甲斐に満ち溢れている.
物語のラスト, 「大渡海」は15年の歳月を経てようやく完成する.
参加者だれもが笑顔だった, その完成祝賀会の様子が印象的だった.
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俺たちは舟を編んだ。太鼓から未来へと綿々とつながるひとの魂を乗せ、豊穣なる言葉の大海をゆく舟を。(:258)
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言葉は無力だけれども, 言葉があるからこそ, 一番大切なものを心の中に残すことができる
(:同).
辞書の完成を見ずに旅立った荒木先生の手紙に触れ, 馬締は強くそう思うのだった.
誰かとつながるために言葉はある.
そんな言葉に携わる, たくさんの人々の愛に触れられた一冊. (下記は文庫本です)