7/28/2012

Avishai Cohen DUENDE


Avishai Cohen with Nitai Hershkovits DUENDE
2012.05.21 released / BLUE NOTE 5099962415729

白じんでいく空に, 街も目覚め始める.
次第に動き出す人々の生活, 一日のはじまり.
そんな光景が思い浮かぶ一曲目「signature.

さっきまでarcoで切なく歌っていたかと思えば, 次の瞬間にはまるでパーカッションのようにリズミカルに動き出すコントラバス.
多彩な音色が印象的だ.
jazzはつくづくアンサンブルだと思うが, アヴィシャイ・コーエンのベースとニタイ・ハーシュコヴィッツのピアノ, こんなにも愉快な会話も珍しいと思う.

さまざまな曲が収められているが, 中には古典派室内楽のようなやり取りもあって面白い.

アンサンブルが心地よい5曲目「all of you」はコール・ポーターによるナンバー.
多くのアーティストがカバーしているが, このアルバムに収められている演奏は脱力感がたまらなくいい.

時代も様式もジャンルも、自由自在に行き来するアーティストたち (ベースもさることながら, ピアノがとてもいい. ヤロン・ヘルマンやブラッド・メルドー, あるいはファジル・サイ, フランチェスコ・トリスターノなんかを彷彿とさせるピアノだ).
夏の夜にぴったりのアルバムである.

Duende

7/07/2012

星野源 夢の外へ


星野源 夢の外へ
2012.07.04.released / VIZL476

雑誌のインタビューで「『フィルム』の後、もう先がなかったんですよね。あの先に行くためには、自分の中にあった上限ラインを越えるしか、もう選択肢はなかったんです」(有泉智子 (2012). MUSICA (20127月号), 6321)といい, 「自分の感覚でトゥーマッチなものをガッツリやってやろう」(:同)と思ったという星野源.

底抜けな明るさはバカバカしいくらいに現実離れしているけれど, それとは裏腹に伝わってくるのは, あたたかい気持ちだ.
これは一体なんだろう.

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意味の外へ連れてって
そのわからないを認めて
この世は光映す鏡だ

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彼がうたう, 寂しさと紙一重の優しさ.
ドキっとするような日々の生活にある生々しさ.
でも, それでも聴き終わったあとにじんわり湧き上がってくる幸福感のようなもの.
それはきっと, 静かに, でも深く日常を見つめる星野源のまなざしと, そこから紡がれたうたを優しく届けてくれるその歌声とにある.

夢の外へ(初回限定盤)(DVD付)
MUSICA (ムジカ) 2012年 07月号 [雑誌]

7/01/2012

植田正治「風の記憶」展


風の記憶:植田正治の私風景
2012.06.09 09.09 /島根県伯耆町・植田正治写真美術館

「時が翔ぶ。場所が翔ぶ。まなざしを翼にして。」

鷲田清一はかつて, 植田正治の写真にはじめて触れたときの印象をこう著した (植田正治・鷲田清一 (2000). まなざしの記憶:だれかの傍らで. TBSブリタニカ:12).
ホスピタリティ(=他者を迎え入れるということ)(鷲田清一 (1999). 「聴く」ことの力:臨床哲学試論. TBSブリタニカ:133)というものを考えるとき, 植田が撮った情景がいつも思い浮かんでくるという鷲田.

今回植田の写真を目の当たりにして, その奇妙な安心感に以前読んだ鷲田の文章を思い出した.
一見すれば不思議な写真なのに, 時間も空間も越えて手を差し伸べられているような…, そんな安心感があった.

今回の展示では, いつものモノクロ写真(シリーズ〈風景の光景〉1970-80, など)だけではなく, 植田のカラー写真もいくつか展示された (シリーズ〈とおい風の譜〉1983).
カラーになると日常感が一気に溢れ出してくる.
少し川内倫子の写真を思い出したのは, 同じく生活の中にあるキラキラした感覚を切り出していたからかもしれない (もっとも, 川内のように露出は高くないが).

美術館は, 田んぼの中にポツんとあって, 向こうには大山が見える(今日はキレイには見えなかったが), そんなシチュエーションにあった (酒田市・土門拳記念館と似ている).
アクセスは不便だが, それはそれで味があっていい.
のんびり, ゆったりした気分になれた.

まなざしの記憶―だれかの傍らで
「聴く」ことの力―臨床哲学試論