世武裕子 リリー
2010.03.24.released / BNCL-43
言ってしまえば変わった音楽である.
ぶっきらぼうなうた, 現代詩のようなテキスト, ちょっとレトロな, というか前時代的な印象さえ受ける音楽. どこか言葉が宙に浮いてしまって落ち着かない日本語のミュージカルのようですらある.
その作戦にまんまとハマり, なんだこれは…とこちらの構えが定まらないうちに音楽は進んでいくから, また まんまと自分の立ち位置を見失ってしまう.
その世界観は1曲目「風船とばす」から前面に押し出される.
ぐるぐる回り続ける行進曲にショッキングな歌詞. 伴奏だけ聴けばスリリングでかっこいいジャズなのだが, そこに乗るのはヘンテコな歌詞と歌だ.
いったいこれは何なんだろうか….
フランス語の曲も挟んで迎えた7曲目「オオカミ少女1」は韓国のパンソリのよう.
まるで演説だ. 16ビートにのって感情露わに うたわれる.
続く8曲目「オオカミ少女2」は最後まで進行しない和声と, ミニマルのようにひたすら繰り返されるピアノが印象的.
7曲目と同じテキストを使っているが
(途中まで), 全く違う雰囲気の曲になっているのも面白い.
いわゆるポップス界でこのスタンスをとる人を沢田穣治(ショーロ・クラブ)しか知らなかったので
(アルバム「Silent
Movie」はとってもcooool), 最初に世武を聴いたときには思わずニンまりしてしまったのを覚えている.
1枚目「おうちはどこ?」の, あの弦楽器のアンサンブルはちょっと衝撃的だったのだ.
続く10曲目「海」は, 7拍子の上で色とりどりな音が交差するピアノ曲.
ようやく1枚目のイメージにあった世武の登場である.
大きな海原を弾いたあと, 12曲目「航路」で彼女はうたう.
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波を切って進め 白い帆をなびかせ
波を縫って進め 大空全部つかめ
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すぐそこで演奏していたと思ったら, いつの間にか野外の大ステージでうたっている…, そんな不思議な印象を抱かせるアーティストである.
さて, 間もなくリリースされる新譜が楽しみである.
リリー
おうちはどこ?
Silent Movie