5/24/2015

東浩紀 弱いつながり


東浩紀 (2014). 弱いつながり:検索ワードを探す旅. 幻冬舎.

keywords:移動すること, 観光

「自分を変えるためには、環境を変えるしかない。人間は環境に抵抗することはできない。環境を改変することもできない。だとすれば環境を変える=移動するしかない。」(:7

東は冒頭でそう述べる.
人間は環境に規定されており, もっといえばネット(検索)に縛られている.
たとえば, グーグルで自由に検索をしているつもりであっても, それはグーグルが取捨選択した枠組みの中だけの自由であって, 他者の規定した世界からは出られないでいる (5).
だから, 自分を変えるためには環境を意図的に変える(つまり移動する)しかない, (11).

本書は二〇一二年から二〇一三年にかけて, 幻冬舎の『星星峡』というPR誌で連載されていた語りおろしのエッセイを再構成したものだという (15).
著者がいうように, とても読みやすい文章で書かれている.

印象的だったのは次の部分だ.
ネット(検索)からの脱出を言いながらも, 東はいう.

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けれども、だからといって、ネットは無意味だ、本当に重要なことは言葉にならないというわけではありません。どうのこうの言いながら、ぼくたちはネットと言葉に依存しなければ生きていけない。重要なのは、言葉を捨てることではなく、むしろ言葉にならないものを言葉にしようと努力することです。本書の言葉で言えば、いつもと違う検索ワードで検索することです。
言葉にならないものを、それでも言葉にしようと苦闘したとき、その言葉は本来の意図とは少し異なる方法で伝わることになります。(:69

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その「誤配」を通して, 言葉にはならないものもあるのだと知ることで, 検索ワードを増やし, 検索結果を豊かにできる (70).
そしてそのためにはいまこそ「秘境」を旅するべきだと, 東はいうのだった.
(後半, 「新しい検索ワードを探せ」という意味は, つまりは「統計的な最適とか考えないで偶然に身を曝せ」(:141)ということだ, と東は述べている)

また, 旅に出ることを推奨する本書の意図は, 次のようにまとめられている.

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人間は思想は共有できない。モノしか共有できない。だから新しいモノに触れるため、旅に出よう。本書の主題は、こんなふうに哲学と結びついています。(:111

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ここでいう「モノ」とは, 時間や経験といった「言葉の外部にあるもの」(:99)のことだ.
ネット検索の呪縛から抜け出すためには, ノイズを入れるためのリアル(:112)が必要だとするのだった.
(そう考えるようになった体験として, 本書ではアウシュビッツに著者が訪ねたときのことが紹介されている)

最後に, 東は平野啓一郎の「分人」思想にも触れる.
だが, 「分人化というのは、複数の村と関係をもつのであれば、名前を使い分けてそれぞれの村の「村人」にきっちりなっていこうという発想です。しかし、あっちではこのキャラで、こっちでは別のキャラで……という立ち回りは、いっけん賢いようですが体力をひどく消耗します」(:146)と, 東はこの平野の考え方に否定的な立場をとる.
そのうえで東が推奨するのは, 「観光客でいること」(:同)だ.
所属するコミュニティがたくさんあるのはいいことだが, そのすべてにきちんと人格を合わせる必要はない.
「一種の観光客、「お客さん」になって、複数のコミュニティを適度な距離を保ち渡り歩いていくのが、もっとも賢い生き方だと思う」(:同)と.

なるほど, 本書のテーマは一貫して旅に出ること, そして(必要に応じて)旅人になること, なのだ.
それはつまり「人間関係を(必要以上に)大切にするな。」(:156)というメッセージであり, 強い絆をさらに強めようとするのではなく, 弱い絆をたくさん持とうじゃないか, というメッセージなのだった